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韓国の新政権誕生を関係改善の契機に

未来志向の視点で対話促進を

韓国で3月9日に行われた大統領選の結果、保守派の尹錫悦(ユン・ソギョル)元検事総長が次期大統領に決まりました。5年ぶりの政権交代となります。

選挙期間中、尹氏は一貫して、文在寅政権下で悪化の一途をたどった日韓関係の改善に取り組むと主張。投票日の約1週間前に行われたメディア3社の主催による「大統領選候補討論会」では、「私が大統領になったら、米国の大統領の次に日本の首相に会う」と、中国よりも日本を重視する姿勢を示していました。日韓関係の改善に積極的に乗り出す姿勢に日本からも期待の声が上がっています。

ここで冷戦前後からの日韓関係を振り返ってみたいと思います。

戦後の両国関係は、冷戦期において、米ソ対立を中心とする国際政治に強く影響されてきました。すなわち、対ソあるいは対北朝鮮の戦略上の必要性から反共の「防波堤」と「後方基地」となった韓国と日本は、歴史問題をめぐる葛藤を残しつつも、安全保障と経済の利益を共有する形で相互補完的な協力関係を維持していたのです。

冷戦体制の終焉後、歴史問題が再浮上。80年代後半から韓国社会で本格化した民主化の流れの中で、学生・市民運動が大きな力を持つようになり、90年代にはいわゆる「従軍慰安婦」問題が両国のみならず国際的な注目を集めました。さらに、2000年代に入ると韓国は自国の経済成長により取引先の多角化を実現。中でも、中国企業は日本以上に重要な存在になっていきました。

そして、2010年代以降は日韓の国力差がほぼなくなった中で、米中対立に対する日韓の立場や考え方の違いが目立つようになり、長年の懸案である元徴用工問題や慰安婦問題に加え、通商問題でも反目し合うなど日韓関係は過去最悪の状況に陥りました。

これに対し、尹氏は、両国間の懸案の「包括的な解決」を掲げ、首脳が相互訪問するシャトル外交の復活も提案。未来志向的な日韓関係をつくると強調しました。

もちろん、実際に両国の溝を埋めるのは容易ではないという見方もあり、韓国国民の声や国会の動向次第では関係が改善しないのではないかとの声もあります。また、尹氏が対北強硬策や日米韓同盟路線を打ち出せば、中国や北朝鮮が韓国に対して経済制裁やミサイル発射実験などで反発してくることも予想されます。そうした中で尹政権がぶれない外交政策をいかに維持できるかがカギになるでしょう。

けれども公約として日韓関係改善を一貫して主張してきたのは金大中大統領以来となります。尹氏は1998年に当時の小渕恵三首相と金氏が署名した「日韓パートナーシップ宣言」の再確認を目標に挙げ、日韓首脳のシャトル外交を復活させると強調。対外政策の軸としては日米韓の安全保障協力だと主張しています。

ウクライナの状況悪化が日々伝えられる中、世界の平和と安全、世界経済に及ぼす影響がどれほど深刻かは、私たちがここ数日実感しているとおりです。一方で、ウクライナがロシアの侵攻を許すことになった脆弱さと、北朝鮮や中国の善意を信じ、米韓同盟、日米豪印(クアッド)の協力体制から距離を置く韓国の状況に類似性を指摘する声も聞かれます。

これまでにも増して、価値観を共有する日韓、そして米国が連携していくことが必要になります。韓国新政権の誕生を契機に、両国は関係改善を優先事案とし、積極的に取り組んでいかなければなりません。

尹氏は日韓関係について、「過去より未来が重要」と述べました。未来の日韓両国を担っていく若者のためにも双方が中長期的な視点に立ち、今こそ対話を進めるべきです。

(H・S)

韓国の新政権誕生を関係改善の契機に

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