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経済安保法成立 求められる民の意識向上

ウクライナ侵攻で緊急性高まる

岸田文雄政権が看板政策に位置付ける経済安全保障推進法が5月11日の参院本会議で可決、成立しました。

「いかなる状況でも国民の命と暮らしを経済面から守り抜ける国になるため、重要な一歩を踏み出せた。早期施行に向け、準備を加速しなければならない」小林鷹之経済安全保障相は11日、参院本会議での推進法可決を受け、記者団に強調しました。

経済安全保障とは経済の動きに関連した国家安全保障上の脅威から日本を守ろうとすることで、国家・国民の安全のために技術やデータ、製品など経済分野の資源を確保しようとする取り組みを指します。この新しい法律は国民生活の安全・安心につながる重要物資の安定的な調達や、先端技術を育成するための制度を創設するものとなります。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、一時的にマスクや医療用ガウンが不足したことは記憶に新しいところです。また半導体不足でPCや自動車の生産が止まったり、この冬には給湯器が品薄となりました。

こうした事態は企業のサプライチェーン(供給網)が世界中に広がっていることから起きています。有事の際には供給網が寸断され、モノが入らなくなるリスクが高まっています。

また、デジタル技術が進んでサイバー攻撃のリスクも増えたことにより、半導体をはじめとする戦略物資や、人工知能(AI)など、各国は高度な技術の獲得を競い合っています。

経済安保推進法は①供給網の強化②基幹インフラの安全確保③先端技術の官民研究④軍事技術に関わる特許の非公開――の4本柱で構成。供給網強化では、半導体や医薬品、先端電池、レアアース(希土類)などを「特定重要物資」に指定し、安定調達に向けた財政支援を実施していきます。官民協力では、人工知能(AI)や量子などの先端技術について、官民で研究・開発する環境を整えていきます。

政府が今、経済安全保障の推進を急ぐ背景に、中国の先端科学技術分野での台頭と米中の覇権争いがあることはいうまでもありません。

中国の台頭に警戒を強めた米国のトランプ前政権は中国通信大手・華為技術(ファーウェイ)に対する半導体の輸出を禁止しました。

20日から韓国、日本を歴訪するバイデン大統領も、米国主導の経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明します。経済安保の観点で中国への過度な依存から脱却するため、民主主義の価値観を共有する日韓などと共に貿易・投資上の共通ルール設定をめざす意向です。

現在起こっているロシアのウクライナ侵攻では、米欧はロシアへの経済制裁に踏み切り、ロシアは天然ガスなど欧州の一部に供給していたエネルギーを止めて対抗していることを見ても、経済は安全保障なしに語れなくなったことがわかります。

国際社会で展開されている国家間競争に対する官の脅威認識に、民の認識をどれだけ合わせられるかが今後のポイントになります。同法の役割は重要なものの、一定の防衛しか図れないため、各企業がより周到な防衛策を備えるべきです。

今回制定された経済安保推進法の狙いはまさに、中国などへの依存から脱却し、政府と企業が協力することによって、日本がパンデミックや海外の有事に大きく左右されることがない自立性を保ち、技術力など日本企業の強みを国際的に高めていくことにあります。

一方で、政府が過度な介入や監視をして自由な企業活動の制限をしてしまうことも防がなければなりません。政府は経済安保の強化と企業活力の維持を両立させるルールをつくり、周知させていくべきです。

経済安全保障に対する国民と民間企業のさらなる意識向上が求められています。

(H・S)

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