データで考える

データで考える②

家族縮小社会の病理―深刻化する児童虐待<上>―

今回のデータ:
「児童虐待相談対応件数の年次推移」
「家族構成別、虐待の発生率の比較(米国)」

text by 小笠原員利(@giovann0307

戦後の日本社会は、大家族から核家族へ、そして今や個人単位の社会へと移行しつつあり、その弊害がさまざまなところに現れています。

支え合う家族の減少は、育児や介護など家族機能の弱体化に直結します。つまり最も弱い立場にある子供と高齢者に深刻なダメージをもたらすのです。すでに多くの問題が顕在化していますが、今回と次回の2回にわたり児童虐待について取り上げたいと思います。

近年、三世代同居が減り、地域の絆も薄れる中で「孤立した子育て」が問題となっています。そうしたなか、児童虐待件数も増加の一途をたどっています。

表1として、児童相談所の虐待相談対応件数のグラフを挙げました。子供の数が年々減少しているにもかかわらず、虐待への対応件数は右肩上がりで増えています。

厚生労働省が資料中でも指摘しているように、児童虐待に対する学校や社会の意識が高まったことも相談件数が増えた要因の一つです。特に、子供の面前での両親の喧嘩や家庭内暴力(DV)について「心理的虐待」として警察が積極的に通告するようになったことも大きく影響しました。実際に、近年の増加分の大半は、こうした「警察等による通告」の増加で占められています。しかし、それらの要因を差し引いたうえでもなお、次に挙げるような理由で、虐待数の増加は事実だと考えられます。

表2は、米国で養育環境別に虐待発生件数を比較したグラフです。実の両親がそろった家庭と比べ、事実婚などの同棲カップル、一人親、離婚・再婚家庭では虐待の発生率が数倍に跳ね上がります。したがって、離婚や一人親家庭が増えている日本の現状を考えると、虐待の実数も増加していると考えるのが妥当です。また、「貧困」も虐待と強い相関がありますが、ここにも家族構造の変化が大きく影響しています。「大人が一人しかいない世帯」では子供の貧困率が実に50%にも達するのです。虐待防止には、離婚を減らすなど家庭再建に向けた努力が欠かせません。

(おがさわら・かずとし=UPF-Japan企画推進局長)

2.家族縮小社会の病理―深刻化する児童虐待<上>―

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