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ボランティアの“経験値”をどう共有し生かしていくべきか

不明2歳児「奇跡の救出劇」が示唆した可能性


良かったー! 山口県周防大島町で、家族で帰省中に12日から行方不明になっていた藤本理稀ちゃん(2)が15日午前6時半ごろ見つかったとの一報に、多くの人が胸をなでおろしたことと思います。行方不明になってから68時間が経過していたにもかかわらず、軽い脱水症状だけで健康状態に大きな問題がなかったのも奇跡と言えるでしょう。

安堵の思いとともにもう一つ、私たちの胸を打ったのは、理稀ちゃんを発見、保護した78歳のボランティア男性の生き方でした。尾畠春夫さんは理稀ちゃん行方不明の報道を見て、14日午後に大分県日出町から現地に駆けつけ、15日早朝から捜索にあたり30分足らずで発見に至りました。

発見後、メディアの取材に対し「小さな命が助かったと思った。本当にうれしかった。助かってよかった。ただそれだけ」と涙ながらに語る姿に、無私の心で人の役に立ちたいと願う尾畠さんの人柄がにじみ出ていました。

もともとは大分県内で鮮魚店を営んでいた尾畠さんは65歳で仕事を辞め、「たくさんの人たちの優しさや感謝を受けて育ったこの世の中に何か恩返しをしたい」とボランティアを選びました。好きな登山を生かして山道の整備をしたり、被災地ボランティアとして、2011年の東日本大震災では、宮城県南三陸町で遺品探しなどの活動をしました。さらに、最近では西日本豪雨の際、広島・呉市でも泥かきを手伝ったといいます。78歳でこの体力と行動力。ただただ頭が下がる思いです。

こうしたボランティアは二次被害の可能性もあることから、誰でもできることではありません。一方で、今回の尾畠さんの姿から私たちは多くのことを考えさせられます。

その一つが、ボランティアとしての尾畠さんの経験値と現場力です。「子供は上に上がる」との経験と勘から、山の上のほうを捜索エリアに定め、見事に探し出しました。尾畠さんは、2016年末に大分県で行方不明になった女児の捜索ボランティアにも参加し、その時の経験が今回の捜索で生かされたことも明らかにしています。ただ活動をするのではなく、「仮説から検証」を繰り返していくことで経験値が積み上げられていったのでしょう。あらためて経験あるボランティアの力の大きさを感じさせました。

今回のような捜索活動に限らず、充実した装備や機動力をもつ消防、警察、救急などの救助部隊と、しっかりとした知識や経験値を有するボランティアがうまく連携することで大きな成果を上げる可能性が高まると思われます。

こうした経験値は、例えばAIのような高度な技術をもってしても容易に得られるものではありません。だからこそ昨今、自然災害が増えるなかでボランティア活動が進む中で、こうした経験値を共有する効果的な仕組みが広がることを期待したいと思います。

人の役に立ちたいという思いと行動力、そして経験値を併せもったボランティアの存在は、今回のような事例に限らず、地域課題の解決や地域活性化においても、今後ますます必要とされていくでしょう。

(W)

ボランティアの“経験値”をどう共有し生かしていくべきか

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