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ノースコリア・ファイル〜激動・北朝鮮の最新情報〜 Vol.29

トランプ氏、強硬派のボルトン補佐官を解任

〜米朝交渉加速も 激変する東アジア情勢〜

text by 東正彦


北朝鮮が崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官を通じて米朝実務協議に9月下旬にも応じる用意があると表明したり、その翌日に、内陸部の平安南道价川付近から東に向けて短距離の飛翔体2発を発射したりするなど、非核化交渉の主導権を握るため硬軟両様で仕掛ける中、トランプ米大統領が強硬派で知られるボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を解任したとのニュースが飛び込んできた。

正恩氏、リビア方式適用を主張したボルトン氏を非難

外信などの報道によると、トランプ氏は核放棄モデルとして米国が政権存続を保証しなかった「リビア方式」の適用を主張したボルトン氏について、「北朝鮮との非核化交渉を大きく後退させた」と非難したという。リビアのカダフィ旧政権は核計画を放棄した見返りに経済制裁緩和などの措置を得たものの、その後、北大西洋条約機構(NATO)がバックアップしたとされる民衆の蜂起で崩壊しており、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長はボルトン氏がリビア方式を持ち出したことに対して、「体制の転覆を狙ったもの」として強く反発した経緯がある。ボルトン氏解任に踏み切ったトランプ氏は今回、正恩氏がそのような発言をしたことに対しても、一定の理解を示した。

ある専門家によると、北朝鮮はトランプ氏に対し、真剣に非核化交渉をしたいのであれば、ボルトン氏とポンペオ国務長官らを交渉の担当者から外し、北朝鮮が核放棄を段階的に進める代わりに、米国が北朝鮮に科している経済制裁の一部を撤回するプロセスを採用するよう求めていたもよう。別の専門家は、「正恩氏はボルトン氏解任を国内政治に有利に作用するとみるのは間違いない。米朝実務協議再開の可能性が一気に高まった」と話す。

年内に4度目の米朝会談も

筆者は本欄で、米朝の4度目の首脳会談が年内にも開かれるかもしれないと予測したが、どうやらその可能性はゼロではなさそうだ。実際、トランプ氏も年内の米朝会談の可能性を示唆したとの報道がある。

https://www.koreatimes.co.kr/www/nation/2019/09/103_275528.html

ただし、北朝鮮が7月25日以降、短距離弾道ミサイルなどの発射を繰り返していることに対して、「ボルトン氏も容認済み」との見立ては残念ながら外れたようだ。

https://heiwataishi.online/archives/3675

4度目の米朝首脳会談が開催された場合、ワシントンは北朝鮮の完全な非核化ではなく、核の凍結を受け入れる可能性が高い。これも本欄ですでに触れた内容だ。

https://heiwataishi.online/archives/3589

ノーディールで終わったハノイ会談の時と比べても、東アジア情勢は大きく変わった。貿易管理強化を機に日韓対立が激化。北朝鮮は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の「仲介者」としての役割を否定。さらに、文政権が日本とのGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄を表明したことで、米国を大きく失望させた。そして、今回ここにボルトン氏の解任が加わったことになる。

中露傾斜の韓国 日本はアジアで孤立も

米朝の非核化交渉が進展した場合、懸念されるのは日本の立ち位置だ。在韓米軍の縮小・撤退が現実味を帯びることになるだろう。既に、日本との決別を宣言した文政権は一気に北朝鮮に接近するはずだ。さらに、日米よりも中露との関係を重視するのは間違いない。むしろ、その方が経済成長の可能性が高いとすら考えている。これが、文政権が提唱する「新北方政策」の本質だ。

文政権は、韓国が自由な市場をベースとする資本主義国家から格差の小さい社会主義国家に移行するよう、準備を着々と進めている。南北はしばらくの間は、「中国と香港、あるいは欧州連合(EU)に加盟する国々のように、緩やかな連邦国家を維持する」(文正仁=ムン・ジョンイン=大統領特別補佐官)だろうが、時を見て一気に統一に傾く。統一後の朝鮮半島は中国の傘下に入る可能性が高いし、アジアでのプレゼンスが低下する米国もそれを望んでいるだろう。そうなれば、日本がアジアで孤立する恐れが出てくる。

トランプ氏のボルトン氏解任で、東アジア情勢が大きく変わりそうだ。

(ひがし・まさひこ=ソウル)

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