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単数形「they」の使用は性別多様性を認めることになるのか

米国の権威ある辞書が選んだ「今年の言葉」


1年の世相を漢字一文字で表す恒例の「今年の漢字」が12日に発表され、新元号「令和」にふさわしく、今年は「令」(レイ)に決まりました。同じように、米国でも10日、150年以上の歴史を持つ有名な辞書である「メリアム・ウェブスター」が「今年の言葉」に単数の「they」を選びました。

私たちが学んだ「they」の概念は覆りつつあります。米国ではすでに、「彼(女)ら」という複数代名詞「they」を、近年、男女別の単数の代名詞「he(彼)」「she(彼女)」に換えて、単数形で使う動きが広がっているようです。例えば、「He is a polite person.」(彼は礼儀正しい人だ)という場合、ノンバイナリー(男性でもあり、女性でもある、もしくは男でも女でもない、どちらの性別にも分けられない)の人に配慮して、「They are a polite person.」と言い換えるわけです。

性的多様性に対する表現の広がりは、米国でも複雑です。例えば、Facebook米国英語版のカテゴリーには自分の性別を表す選択肢が50以上もあります。

性的マイノリティに限らず、あらゆる少数派や立場が弱い方々に配慮することは必要です。気をつけているつもりでも、望まない誤解を与えてしまうことはあります。相手を尊重する気持ちが表れるような言葉選びを心掛けることは大人の作法と言えるでしょう。

ただ、ポリティカル・コレクトネス(政治的・社会的に公正・中立な言葉や表現を使う態度=PC)が不要とは言いませんが、実存する性差を中性化することが、果たして多様性を認めることになるのでしょうか。

時代によって言葉の価値観、考え方が変化していくのは自然な流れかもしれませんが、一方で言葉は文化や精神性を表す道具でもあります。長い歴史とともに、必要あってこれまで表現されてきた言葉が使用できなくなるのは、多様性という観点から見ても、疑問に感じます。

(y)

単数形「they」の使用は性別多様性を認めることになるのか

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