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SNS発信、誰もが「加害者」になりうるという自覚を

木村花さんの死から学ぶべきこと


人気リアリティ番組『テラスハウス』(フジテレビ/Netflix)に出演していたプロレスラーの木村花さんが5月23日、亡くなりました。自宅のリビングには遺書とみられる書き置きがあり、本人のSNSには死の直前に「さようなら」「愛されたかった人生でした」などの投稿があったことから自殺とみられています。

その後、花さんに対するインターネット上の誹謗中傷によって彼女が深く悩み、精神的に追い詰められていたことが明らかになってきました。同番組は海外にも配信されていたことから、若き女子レスラーの死は海外にも衝撃を与えています。英BBCのサイトで最も読まれた記事になったほか、米国でも一時、ツイッターのトレンドワードで1位になったといいます。

彼女を追い込んだとされる誹謗中傷の書き込みをしていた匿名の人たちや番組関係者などへの非難の声が相次ぐなか、一方では「加害者」とされる人々への誹謗中傷という「憎悪の連鎖」も広がりつつあります。

誹謗中傷の書き込みをしていた人々の中には、慌てて投稿を削除した人も少なくないようで、問題の背景にネット上の匿名性や、誹謗中傷の温床になっているSNSやプラットフォーマーの対応不足を指摘する声も高まるなど激しい議論が交わされています。

有名人がネットで誹謗中傷を受け、自殺に追い込まれるという痛ましい事件は、昨年、韓国でも大きな問題になりました。アイドルグループKARAのメンバーだったク・ハラさんや、同じくf(x)のソルリさんが相次いで命を絶ちました。

このような事態を受け、韓国国会ではネット上での準実名制導入や悪質なコメントを規制する関連法の改正が発議されました。

また、国だけでなく、ポータルサイトを運営する企業側も改善への動きを見せました。

IT大手のカカオは昨年10月31日から、ポータルサイト「Daum(ダウム)」の芸能ニュースでコメント欄を廃止。韓国最大のポータルサイト「NAVER(ネイバー)」でも、今年3月5日から同様の対応を行っています。

日本でも今回の事態を受け、5月26日に、国内外のソーシャルメディア企業が会員として名を連ねる「ソーシャルメディア利用環境整備機構」がソーシャルメディア上の名誉毀損や侮辱等を意図したコンテンツの投稿行為に対する緊急声明を発表。

さらには、高市早苗総務大臣が、ネット上の匿名の発信者の特定を容易にするため制度改正を検討すると発言しました。自民党も6月9日、ネット上の誹謗中傷の抑止に向け、匿名の投稿者を速やかに特定できるよう、情報開示請求の要件の緩和などを盛り込んだ提言案をまとめました。

いうまでもなく、インターネット、特にSNSは人のコミュニケーションの機会を広げる有用なツールです。新しいサービスの誕生とともに、場所や時間を選ばない双方向の情報のやり取りがますます拡大し、それが個人と社会に多くの利便性と課題解決の可能性をもたらしていることも事実です。

一方で、それゆえに匿名で誹謗中傷ができる「凶器」を手にしているともいえます。自らは匿名ということに安心し、汚い言葉で相手を罵倒することができるようになったために、心理的な抑止力が無くなってしまうのです。

誹謗中傷を受けて、それを無視できる人もいれば、そうできない人もいます。SNSで誹謗中傷被害を受けた人に対し、「スルーすればいいのではないか」などという人もいますが、被害に遭っている当事者と第三者の間には感情の大きな温度差が生じがちなことも、問題を深刻化させる要因の1つではないでしょうか。

私たちの日常にあって、指1本でアクセスできるSNS。自分の意見や思ったことをすぐ発信できたり、誰とでもつながることのできる便利なツールですが、言葉の力は時に人を死に追いやるほど強いということを忘れてはいけません。誰もが加害者になりうるという自覚を持ち、利用者一人ひとりがSNSの使い方をよく考えてみるべきです。木村さんの悲しい死が、日本社会におけるインターネット上での表現のあり方を見直すきっかけとなることを願います。

(H・S)

SNS発信、誰もが「加害者」になりうるという自覚を

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