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忍び寄る「同性婚合法化」(前編)

客観性・中立性を欠く「日本学術会議」の提言


9月29日、日本学術会議が「性的マイノリティの権利保障をめざして」という提言書を発表しました。この中では、「婚姻の性中立化」という耳慣れない言葉で、事実上の「同性婚合法化」が提言されています。そのほか、「性の多様化」に関する教育の推進や、女子大へのトランスジェンダーの入学を推奨するような提言もなされています。

非常に過激な内容だと言わざるを得ませんが、こうした極端に偏った提言が日本学術会議という権威ある機関によってなされたことは憂慮すべき事態です。同会議は「内閣総理大臣の所轄の下で…(中略)…『特別』の機関として設立され」「我が国の…(中略)…約84万人の科学者を内外に代表する機関」(同会議HPより)として位置づけられています。従って、今回の提言は、事実上、わが国の学界が公式に「同性婚合法化」を政府に要求したようなものなのです。

あわせて今回の総選挙では、「希望の党」が公約の中にダイバーシティ社会の実現を掲げ、LGBT擁護の政策を打ち出しています。もともとこの問題に対して積極的な民進党、社民党、共産党などとあわせて、非常に警戒すべき動きだと言えるでしょう。同提言に対しては、いずれ十分な批判、検討が加えられるべきですが、まず、代表的な論点について、いくつか触れておきましょう。

◇性的マイノリティが人口の7.6%と強調

提言では「電通ダイバーシティ・ラボ」の調査が何度も引用されており、性的マイノリティの数の多さが迅速な対応の根拠の一つとして強調されています。しかし、この電通調査の7.6%という数字については注意が必要です。このうち「男女どちらとも決めたくない」などといった曖昧な返答を除くと、レスビアンやゲイといった厳密な同性愛者は1.4%にすぎず、心と体の性が一致しないトランスジェンダーも0.7%と非常に少ない数字になります。

英米の公的機関による調査でも、同性愛者の比率は人口の1-2%台にとどまっています。また、2013年に文科省が行った調査では「性別違和」を感じる小中高生の数は606人で、全小中高生の0.0045%に過ぎませんでした。さらに民間団体が全国の児童養護施設を対象に行った調査でも、性別違和や同性愛の傾向を持つ子供の割合は、非常に曖昧なケースを含めても1%未満となっています。

LGBTの実態が正確に把握されていない中で、電通調査の数字が独り歩きすることは過剰な政策対応を招くリスクがあります。事実、三重県伊賀市においては「7.6%を伊賀市にあてはめると、5000〜7000名の性的少数者が存在することになる」として、わずか1カ月程度の検討ののち「同性パートナーシップ宣誓書」の導入を決定しました。しかし、1年余りを経た時点でも、申請したのはわずか4組に過ぎませんでした。

今回の提言には、法律の制定やガイドラインの策定に加え、各種行政文書の書式変更や公的調査の実施など、予算措置を伴う内容も数多く含まれています。政策の優先順位を適切に判断するためにも、「性的少数者」が人口の13人に1人という、なかば誇張されたデータを使用することは控えるべきです。

◇「婚姻の性中立化」を提言

提言では「婚姻の性中立化は必須であり、そのための民法改正」を求めるとしています。これは事実上の「同性婚合法化」の提言です。その理由として、「個人の利益を否定するに足りる強力な国家的ないし社会的利益が存在しない限り、個人の婚姻の自由を制約することは許されない」と述べています。

これは、あまりにも一夫一婦の結婚制度の意義を軽んじた見方です。結婚を男女の一対一の関係に限定することには「強力な国家的ないし社会的利益」が存在するからです。

そもそも「婚姻」が他の人間関係とは異なる特別な義務、特権を与えられているのは、それが次世代を生み育てる基盤だからです。人間は成人するまでの期間が非常に長いため、子供の実の両親が長期にわたって安定した関係を維持し、子供の育成環境に責任を持つ必要があります。そのためには婚姻制度を整え、健全な性秩序と異性愛規範が保たれるようにしなければなりません。

逆に、現在の日本では、その「婚姻」が弱体化することによって深刻な「国難」が訪れています。非婚化・晩婚化による人口減少と地方の衰退、離婚にともなう一人親家庭の貧困問題や児童虐待の増加、更には増え続ける単身高齢者に対する社会保障、介護の問題などです。

そうした中、改めて一夫一婦の安定的な「婚姻」の意義を見直し、保護、強化することこそが、重要な政策的課題となっています。それに対して、同性愛者の共同生活は、あくまでも当事者間の「個人的利益」に限定されるものであり、男女の婚姻に匹敵する国家的、社会的利益をもたらすものではありません。従って、両者を同列に扱う「婚姻の性中立化」=「同性婚合法化」は、現在の日本の課題解決に逆行するものであり、決して認められるべきではないでしょう。

また、同提言では「婚姻」の憲法解釈についても偏りが見られます。これまで「婚姻は、両性の合意にのみ基づいて成立」するとした憲法24条は「同性婚を認めていない」という見解が主流でした。国会においても、安倍首相が「現憲法の下では、同性カップルの婚姻の成立を認めることは想定されていない」(2015年2月18日)と明確に答弁しています。しかし、提言の中では、審議に参加した棚村政行早稲田大学教授らの「憲法24条の立法趣旨は『家制度から婚姻を解放』することにあったため同性婚を否定していない」という主張を無批判に採用、著しく中立性を欠いています。

この点からも、日本学術会議の提言には大きな問題があると言わざるを得ません。(O)

忍び寄る「同性婚合法化」(前編)

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