ポストコロナ

ポストコロナ 世界はどう変化するのか 〜UPF主催「ILC特別懇談会」の議論から〜 第10回(最終回)

コロナ禍は新文明誕生の契機となるか

日本は真のグローバリズムに立った世界の“世話焼き国家”たれ

text by 魚谷俊輔

「ポストコロナの世界—平和秩序と日本の役割」をテーマとするILC特別懇談会(主催:UPF-Japanほか)が2020年6月30日、東京都内で開催され、国際政治と家庭問題の専門家、ジャーナリスト、国会議員をはじめとする25人の有識者たちが活発なディスカッションを行った。このシリーズは、そこで有識者たちが出しあった様々なアイデアをテーマごとに整理し、換骨奪胎して筆者なりにまとめたものである。この論考が、平和大使1人ひとりがポストコロナの世界に対する展望を抱くうえで助けになれば幸甚である。

文明と国際システムの転換促した感染症の歴史

人類の歴史は感染症との闘いの歴史であった。30年ほど前にエイズが非常に大きな問題になって以降、既に48のウイルスが新たに見つかっているが、そのほとんどに対して対策は立てられていない。おそらく、これからも似たようなことが起こるだろう。実はパンデミックそのものが問題なのではない。歴史上、パンデミックが大きな出来事になったことは3回あったが、3回とも非常にはっきりしているのは、パンデミックとその他の事柄、すなわち戦争や飢餓などが絡んで大きな問題となった時に、文明の転換、国際システムの大きな変化が起こったということだ。

最初に紀元前440-439年にペロポネソス戦争が起こった。この戦争では最初はアテネが勝っていたが、疫病(何の疫病かは特定されていない)によって、アテネの陸軍の4分の1が死んでしまった。さらに、歴史上もっともすぐれた民主主義の指導者であると言われているペリクレスも疫病で死んでしまった。その結果、アテネが負けてしまった。これはギリシャの都市国家全部を巻き込んだ戦争だったので、都市国家全体にペシミズムが横溢した。これによって、ギリシャの古代都市国家が100年をかけて崩壊してしまった。

2番目は1349年からのヨーロッパの黒死病である。これが少し前から始まった100年戦争と絡んで、ヨーロッパの中世封建制度が崩壊した。そこから大きな歴史の転換が始まっている。つい最近では、第1次世界大戦が終わろうとする1918年に始まったスペイン風邪がある。この2つが絡まって、世界システムの転換が起こった。パックス・ブリタニカからパックス・アメリカーナへの動きを後押しすることになった。

「Gゼロ」の世界における日本の役割とは

今回のコロナ・パンデミックが単なるパンデミックに終わることなく、世界のシステムのなんらかの決定的な事柄と絡んでいくのかどうかが一番大きなテーマとなる。差し当たって考えられる大きな事柄とは、「米中新冷戦」である。コロナ禍によって米中が共に影響力を低下させる「Gゼロ」の世界が来るとすれば、その中で日本の果たすべき役割について考えなければならない。

日本の1世紀半の近代史を振り返れば、外交政策の思想については3人の人物に代表されていた。それは①福沢諭吉の脱亜入欧、②岡倉天心のアジア主義、③戦後は新渡戸稲造の日米協調だった。しかし、コロナ後にアメリカも中国も世界を引っ張れない状況になれば、日本はどうするべきか。それを考えるヒントは、150年前に明確な国家構想を持っていた佐久間象山と横井小楠の思想にあるのではないか。

佐久間象山は『海防八策』(国防には外国船の購入と操船技術の習得が必要という当時としては斬新な意見書)において、海洋国家である日本が世界と渡り合っていくためには、世界の科学技術を取り入れて自衛力を持つことが重要であると説いた。横井小楠は「世界は常に喧嘩ばかりしているが、世界の世話焼きをする国がどこにもない。日本は世話焼き国家になるべきである。それが日本の国防力になる」と言った。横井小楠の弟子たちが、明治政府の基本方針である「五箇条の御誓文」を起草した。その最初には「万機公論に決すべし」と書いてあり、民主主義の一番の根幹が書いてある。それが明治国家の出発点だったのだが、出来ていった国家はそれとはだいぶ違う国になってしまった。

佐久間象山は1864年、横井小楠は1869年に暗殺されたが、明治への移行期ならびに明治初期にこれらの優れた国家構想者を失ってしまったことは日本の悲劇であった。その結果、明治日本はそれなりの近代国家を作っていったが、10年ごとに戦争を繰り返して、太平洋戦争に突っ込んでいって自己崩壊してしまった。

横井小楠と佐久間象山の思想は、日本に根っこを持つグローバリズムである。今回のコロナ禍が、歴史上これまで3回あった疫病と絡んだ「文明の転換」と同様に、4回目の重要な契機をもたらすのであれば、消耗戦の色彩を帯びている米中の争いの中にあって、日本は世界の世話焼き国家として、新しい文明の誕生に貢献すべきではないだろうか。

(おわり)

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