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長期的な米社会の方向性決める連邦最高裁判事の人事

トランプ大統領が保守派バレット氏を指名

トランプ米大統領は9月26日、先に死去したリベラル派のルース・ギンズバーグ連邦最高裁判事の後任にエイミー・バレット氏(48)を指名すると発表しました。

保守派のバレット氏は信仰心の厚いカトリックとして知られ、人工妊娠中絶や銃規制に批判的な立場の判事として知られています。トランプ氏は26日、ホワイトハウスで読み上げた声明で、バレット氏について「米国の安全や自由、繁栄を守る」とし「バレット氏ほどこの目的に最も見合う人はいない」と強調しました。

一方、民主党は11月の大統領選で勝った候補がギンズバーグ氏の後任を指名すべきだと訴えています。野党・民主党の大統領候補であるバイデン氏は「最高裁判所の決定は国民の日々の暮らしに影響する。有権者の声を聞くべきだ」と新しい大統領と上院議員が決まるまで、承認の手続きを見送るべきだとしています。

米最高裁は学校での人種隔離を違憲とした判決(1954年)や、人工妊娠中絶の権利を認め、州の中絶禁止法を違憲とした判決(73年)など、社会に大きな影響を与える判断を示してきました。LGBTQ問題や不法移民対策、医療保険制度など政権の主要政策の方向性も決定づけています。また、最高裁判事は終身制であるので、このような米社会の方向性を左右する判断に長期にわたり関与することになります。

米国民にとって、最高裁がどのように活動するかが、最高裁自体の正当性、国内外における威信、そして法の支配を保証する存在としての地位を高めるという点で、常に高い関心を集めているのです。

では、今回、なぜトランプ氏と共和党は指名を急いだのでしょうか。

メディアの多くは、トランプ政権が支持基盤であるキリスト教福音派をはじめとした保守層にアピールし、劣勢が伝えられる選挙戦での巻き返しをはかるねらいがあると分析しています。

しかし、それは表面的な見方です。

米国の人口動態はキリスト教徒や白人が減少する一方、黒人や中南米系などの人種的少数派の割合が増え、少数派で構成される社会に変わりつつあります。さらに、東西冷戦終結以降に生まれた世代は社会主義への警戒感が薄く、特に若者層に左派リベラル思想が広がっているとされています。

共和党保守派が「アメリカ社会のリベラル化」に危機感を抱き、最高裁を米国の「左傾化」を食い止める「最後の砦」に位置付けているからともいえるでしょう。

大統領選が残り1か月あまりに迫る中、最高裁人事問題は、選挙戦の最大の焦点の一つに浮上しました。2016年の大統領選の出口調査では70%が最高裁の判事任命を重要なトピックにあげるなど、最高裁の動向への関心はきわめて高いと見られています。

そして、自由民主主義陣営の普遍的価値の柱である法の支配が、中国などから大きな試練を受けている今日、この問題は同じ価値観を共有する日本にとって無関係ではありません。

(H・S)

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