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公正な宇宙利用に向けた国際ルールの議論を急げ

クルードラゴン打ち上げ成功で「宇宙新時代」へ

日本時間11月16日午前9時27分、野口聡一さんたち4人の宇宙飛行士が搭乗する米・スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」が、米・フロリダ州ケネディ宇宙センターから同社のファルコン9ロケットで打ち上げられ、無事国際宇宙ステーション(ISS)に到着しました。

ケネディ宇宙センターから打ち上げられた宇宙船には、野口さんのほかに3人の米国人宇宙飛行士が搭乗。17日昼には無事、ISSとドッキングしました。野口さんは今後、約半年間滞在し、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた実験などに取り組みます。

世界各国で宇宙開発への熱が高まっており、近年、多くの資金が投入されています。宇宙ビジネスの世界の市場規模は2010年の約27兆円から、この10年で約40兆円にまで成長しており、今後も飛躍的に伸びていくと予想されています。

その1つの要因が、民間企業の宇宙産業への参入です。今回クルードラゴンを開発したスペースX社をはじめ、ここ数年で多くの民間企業、ベンチャー企業が誕生しました。今回の打ち上げ成功により、民間による有人宇宙船の時代がついに到来したことを世界中に印象づけました。

スペースX社は量産化が可能なエンジンの開発や機材の再利用で経費を抑えたほか、各種の不具合にもベンチャーならではの機敏さで対応し、今回の成功につなげました。同社は将来、クルードラゴンに一般人を乗せて宇宙旅行を事業化する計画で、民間による宇宙ビジネスが本格化していきそうです。

一方で、冷戦期の米ソと同様、現在の宇宙開発競争も国の力を誇示する場と見ることができます。

昨年1月、中国は世界で初めて月の裏側に無人探査機を着陸させました。習近平指導部は2030年までに米国やロシアと並ぶ「宇宙強国」となることを標榜しています。日本や韓国、イスラエルなども、月の探査を目指しています。

もちろん各国は、自慢するためだけに宇宙探査を急いでいるわけではありません。宇宙空間での軍事力の増強も目的の1つとなっています。

トランプ米政権は昨年12月、「宇宙軍」を発足させ、「宇宙空間は世界で最も新しい戦闘領域だ。安全保障への重大な脅威があるなか、米国の優位は絶対に重要だ」と訴えました。宇宙軍は1万6000人規模になり、宇宙空間の監視や作戦などを担うといいます。

今後、国際政治分野において求められているのは、グローバル・コモンズとしての宇宙空間を安定的、持続的に利用できるようにするための制度づくりでしょう。

宇宙軍備管理をめぐっては1967年に発効した「宇宙条約」がありますが、大量破壊兵器の宇宙への「配備」は禁止しているものの、兵器の「通過」は規制の対象でないなど、十分に機能しているとは言えません。ほかにも、中国が2007年に地上発射型の弾道ミサイルで人工衛星を破壊した際には、大量のデブリ(宇宙ごみ)が発生して他国の衛星を危険にさらしました。

地球以外の天体に眠る水や鉱物といった資源をはじめ、宇宙開発は大きな可能性を持っています。それは特定の国や企業のものではなく、人類共有の財産であるべきです。公平公正な宇宙利用に向けた理念の形成やルールの作成、また共通の脅威である宇宙デブリなどに協力して対処することが不可欠です。

宇宙が人類の公共空間として活用され、野口さんなどの活躍が私たちに夢と希望を与えてくれる場であり続けられるよう、すべての国家が宇宙の重要性を認識し、勢力圏争いや資源獲得競争を避けるための行動が急がれます。

公正な宇宙利用に向けた国際ルールの議論を急げ

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