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忍び寄る同性婚合法化(後編)

希望の党も推す「LGBT差別禁止法」の危険性

前回、日本学術会議の提言「性的マイノリティの権利保障をめざして」において事実上の同性婚合法化が主張されていることを批判しました。実はこの提言には、それ以外にも幾つかの問題点が含まれています。この後編では、「LGBT差別禁止法」および「『多様な性』の教育」「身体に関する自己決定権」の問題点について触れていきたいと思います。

「LGBT差別禁止法」と思想、信教、言論の自由

提言では「性的指向・性自認・身体的性」に基づく差別を禁止する「性的マイノリティ差別禁止法」の制定が主張されています。同様の法案は、すでに民進党、社民党、共産党などによって国会にも提出されており、今回の選挙でも、希望の党が「LGBT差別禁止法」制定を公約に掲げています。もちろん、差別は許されませんが、同法の制定は、深刻な「思想、信教の自由」の侵害をもたらし、言論弾圧に至る危険性をも孕んでいます。

例えば、民進党など野党四党が2016年5月、衆院に提出した「LGBT差別解消法」を見ると、LGBTが「日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような」「事物、制度、慣行、観念その他一切」を解消すべきだとされています。ここには「観念」という言葉も含まれているため、「男らしさ・女らしさ」など、男女の性別を強調するような考え方までも、性的マイノリティの「生きづらさ」につながるとして主張できなくなる可能性があります。教義や慣行に基づいて、神社や教会などが結婚式を男女間のみに限定した場合も「差別」として罰せられるかもしれません。

実は、これは決して杞憂ではありません。すでに欧米などでは「同性愛」について批判的な見解を述べただけで職を追われたり、裁判で訴えられる事例が相次いでいます。宗教的な信条の故に「同性婚」へのサービスをことわった写真家や花屋に罰金が命じられたケースもありました。他者の権利を侵害するような過度の人権の主張は認められるべきではありません。そうした意味で、殊更にLGBT当事者側の主張だけが一方的に認められるような法律は制定すべきではないでしょう。また、日本には「男女雇用機会均等法」におけるセクハラ禁止規定や、刑法の「侮辱罪」「名誉棄損罪」など、個人の尊厳を守る法律が数多く存在しており、LGBTに対する差別に対しても十分対処が可能です。

「性の多様性」を小学校低学年から教育?

教育に関する提言では、「『性の多様性』に関する教育を小学校低学年から盛り込み、異性愛中心主義を押し付けないように教育内容や教科書の改訂に取り組むこと」と明記されています。まず、この「性の多様性」という言葉自体が非常にイデオロギー的で大きな問題をはらんでいます。

私たちの社会は「男性」「女性」の区別を基本として構築されています。実際に遺伝子、身体的特徴、脳の機能など、男女には明確な違いがあり、その違いを尊重し補い合うことで家庭や社会を形成していきます。従って、教育においては、むしろ男性と女性の違いをしっかり理解させ、それぞれの性にふさわしい発達を促すとともに、お互いの調和、協力を可能にするため、異性愛規範や守るべき性秩序について教育すべきなのです。

しかし、この提言では、生物学的にも明らかな「男女」という区分を否定する思想を採用しています。まず、身体的な性についても「人の身体的性は、典型的な男女身体を両極に様々なグラデーションをなすのであり、連続的にとらえる必要がある」と書き、男女の区別を事実上なくしています。こうした教育を小学校低学年から行うことは、性意識の混乱をもたらすばかりでなく、男性、女性としての健全な発達や、異性関係の構築にも悪影響を与えることになるでしょう。

リスクの伴う「性別移行」には慎重であるべき

さらに、同提言では教育上の課題として「性的マイノリティ当事者の自尊感情を育む」ために様々な教育的配慮を要求しています。子供たちの「自尊感情」を育むことは重要ですが、一方で、本人の「性自認」「性的指向」を、ありのまま全面的に肯定することはリスクを伴います。特に思春期前の「性別違和」については、「75〜90%が成人するまでに解消する」と言われており、慎重な対応が必要です。

例えば、低年齢の子供が訴える「性別違和」をそのまま肯定し、本人が望むまま、「思春期抑制剤」を処方して身体の自然な変化を遅らせたり、ホルモン治療を始めてしまうと、本来であれば解消するはずの「性別違和」が、ほぼ100%固定してしまうとされています。つまり、何もしなければ、成人までに「心と体の性が一致」したはずの子供たちまでもが、早すぎる性自認の肯定によって、生涯「性別違和」の苦しみを抱えて生きることになるのです。これを全米小児科医学会のミシェル・クレテラ会長は「一種の児童虐待だ」と批判しました。

さらに、提言では「身体に関する自己決定権」が主張されていますが、十代の子供たちは「リスクに関する認識が弱い」傾向があることが知られており、性別移行にむけたホルモン治療や性別適合手術の是非を決定するには早すぎるという指摘があります。米保険福祉省の医療専門家チームも、これらの治療は「リスクが高いうえに利益が不明確だ」と主張しています。「性別違和」を抱える人への同情心から「性別移行」への要件緩和を主張する人々がいますが、むしろ本人が予期せぬリスクを背負わぬためにも「性別移行」については、単なる「自己決定」ではなく、より慎重な対応が望まれるのです。

異論を認めない風潮は不健全

このほかにも「自分の『体の性』とは異なる性別のトイレを使用することを認める」「女子大へのトランスジェンダーの入学を認める」「ホルモン療法や性別適合手術への保険適用を認める」など、欧米ですら、いまだに激しい議論を呼んでいる問題を、反対意見にほとんど触れることなく、あたかも当然の施策であるかのように提言しています。

現在、性的マイノリティの問題に関しては、メディアなどで権利擁護派の意見ばかりが大きく取り上げられる中、客観的な議論を行うことが難しくなっています。同性婚に反対したり、小中学生への「性の多様化」教育に警鐘を鳴らしたりする人々も、決して性的マイノリティを差別しているわけではないのですが、「差別主義者」「わからずや」「時代遅れ」などのレッテルを貼られかねない状況です。

このままでは欧米と同じく、性的マイノリティの権利問題に関して、慎重な意見を述べること自体が難しくなるでしょう。それは、「思想的なエコーチェンバー(残響室)」(※)をつくることであり、健全な議論を妨げ、結果的には社会全体の利益を損なうことになります。LGBT権利擁護派の意見のみを採用した今回の日本学術会議の提言は、そうした観点からも大きな問題を孕んでいます。権威ある機関には、それだけ公平性、中立性が要求されることを忘れるべきではないでしょう。(O)

※特定の立場の意見や思想だけが影響力を持ち、異論を主張しにくい状況が生まれること。

忍び寄る同性婚合法化(後編)

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