米中対立で揺れる国連と日本の役割

米中対立で揺れる国連と日本の役割 第6回

そもそも常任理事国ではない現在の中国

text by 魚谷俊輔

 

日本は「中国と戦争をしていた」わけですが、これをより正確に言うと、大日本大国と「中華民国」という国が、1937年から45年まで「日中戦争」という戦争をしていたということになります。ではこの「中華民国」という国がどういう国かというと、1912年に建国された国です。それまで中国には「清」という王朝があったわけですが、その清を倒して「中華民国」という共和制の国を作ったのだということになります。この中華民国の政権は袁世凱、孫文、蒋介石と継承されてきました。孫文のときに国民党という政党が作られまして、その後継者が蒋介石ですから、日中戦争における中国の敵は蒋介石の国民党政権であったということです。

ところが、第二次世界大戦が終わりますと、中国国内で本格的な内戦が起きるようになります。毛沢東率いる中国共産党が、蒋介石率いる政府軍に対してクーデターを起こします。毛沢東はソ連から援助を受けたりして、そのクーデターを成功させます。蒋介石は海を渡って台湾に逃げて、台湾にそのまま中華民国の政府を移しました。実は「台湾」というのは国の名前ではなくて、楕円形の島の名前でありまして、ここに蒋介石が逃げ込んで中華民国の政府を移したのだということです。

一方で大陸のほうは、蒋介石を追い出すことによって中国共産党が完全に支配するようになり、1949年に「中華人民共和国」を建国することになります。したがって中国を場所だけで考えると中華人民共和国が中国なのですが、政府として考えると台湾に逃げた中華民国の方が実は本来の中国の政府なのだという、ちょっと複雑なかたちになるのです。

いまはどうなっているかというと、大陸を支配している中華人民共和国が圧倒的に力が強いので、一般的にはこちらが「中国」ということになります。その中国の主張していることは、「台湾は国ではない。国ではないのに国であると勝手に言っているだけだ」ということで、これを「One China Policy(1つの中国政策)」と言います。あくまでも中国は1つであるという意味です。日本も中華人民共和国と国境を結んだ以上は、台湾とは国交を結ぶことはできません。したがって、台湾には日本の大使館はありません。その代わりに日本台湾交流協会という連絡機関が設置されています。このことから分かるのは、いまの中国は日本が日中戦争で戦った国ではないし、そもそも国連の常任理事国になった国でもないということなのですが、この「2つの中国」が国連で大問題になるわけです。
(つづく)

そもそも常任理事国ではない現在の中国

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