米中対立で揺れる国連と日本の役割

米中対立で揺れる国連と日本の役割 第10回

「海洋大国」を志向し始めた中国

text by 魚谷俊輔

 

前回は中華人民共和国が国連における代表権を獲得するプロセスと、中国によるウイグル侵攻とチベット侵攻について説明しました。この2つの侵攻を行った結果、中国はどういう方向にむかったかと言えば、「海洋進出」を始めたのです。

中国は歴史的に大陸国家であり、陸続き・地続きで攻めてくる外敵から自分の国を守ることが安全保障上の最大の課題でした。北方から攻めてくる民族があり、歴史的には匈奴、タタール、契丹、モンゴルといった民族が侵入してきたのです。これを防ぐために作られたのが「万里の長城」です。現在の北方の敵は、実はロシアです。面白いことに同じ共産主義であったソ連と中国のときにはこの2カ国は大変仲が悪かったのです。しかしロシアになってからは中国とロシアの関係は良好でありまして、領土問題もありません。内モンゴルも制したので、北方からの敵に対峙する必要は無くなりました。

そして中央アジアの敵は北方のウイグルと南方のチベットということですが、この2つは制圧してしまったので解決しました。南西アジアにおいては、インドとの間に緊張関係はあるのですが、チベットが緩衝地帯になっているのでこれもクリアしました。東南アジアはミャンマー、ラオス、ベトナムといった国々ですが、現在こうした国々との関係は良好なので、脅威となる国はありません。すなわち、地続きで中国を脅かす国はもうなくなったわけです。そこでいまは「海に出ていこう」ということになり、国防予算の大半を海軍増強に使おうというのが中国の戦略になります。いまや中国は歴史上初めて、「海洋国家」としての大国化を目指すようになったのです。

中国は歴史的には大陸国家だったのですが、1990年代以降、国家安全保障上の脅威は「陸の国境地帯」から「太平洋方面」へとシフトしたわけです。そして現在の中国の繁栄の源は、太平洋側に面した北京、上海、広東などの沿岸経済地域ですが、この地域が最も脆弱であると認識しています。いまや、中国が必要とする資金、技術、原材料、エネルギーは海からやってくるのです。その流れを脅かしているのがアメリカと日本であって、特に太平洋に展開している米海軍が邪魔でしょうがないのです。

(つづく)

「海洋大国」を志向し始めた中国

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