米中対立で揺れる国連と日本の役割

米中対立で揺れる国連と日本の役割 第15回

「4人の警察官」構想から「1人の警察官」へと方向転換したアメリカ

text by 魚谷俊輔

 

しかし一方で、国際社会の現実としては、政治、経済、軍事、情報、全ての分野でアメリカの国力は突出しており、いわば「別格」的存在になっています。ですから、たとえアメリカが国連憲章を無視して国際法に違反したとしても、国連にはそれを阻止する力はありません。ですから結局アメリカは当初の「4人の警察官」構想から「1人の警察官」へと方向転換し、単独行動主義的な行動を取るようになってしまったのです。そしてアメリカと同盟関係にある先進国のグループは、サミットや有志連合のような形で物事を決めて実行していくようになり、国連の枠外で共同行動を取る傾向が強くなっていったのです。すなわち、国連軽視という方向に向かっていったということになります。

しかし、1人で警察官をやるといってもそれは大変です。アメリカも国力が下がってくると、だんだんそれができなくなってきます。そして2013年にオバマ大統領がテレビ演説の中で「アメリカはもはや世界の警察官ではない」という話をしてしまいます。これが世界に対して、「問題を起こしても米軍は介入しない」という、抑止力の不在というメッセージとして受けとめられたので、中国で、ロシアで、イスラム国でさまざま問題が勃発するようになりました。

このオバマ大統領の後任がトランプ大統領です。トランプ大統領は「私たちの計画はアメリカ第一主義だ。グローバリズムではなく、アメリカニズムを信条とする」と言いました。あくまでアメリカが第一なのだということですから、国際的には孤立する方向に向かっていかざるを得ません。国際協調を重要視しないわけですから、国連も重要視しないということになります。

トランプ政権下において、アメリカの国連離れは加速します。2017年の10月にはUNESCOを脱退します。2018年の7月には国連人権理事会(UNHRC)を脱退します。2019年11月には地球温暖化を防止するための「パリ協定」からの脱退を表明します。そしてさらにWTO、国際貿易機構に対しても、「これは中国を守っているだけだ」と批判しましたし、さらにコロナの問題でWHOからも脱退に着手するということで、どんどん国連機関から外れていこうとしたのです。アメリカがこういう状況だと、日本はどうしたらいいのだということになります。

(つづく)

「4人の警察官」構想から「1人の警察官」へと方向転換したアメリカ

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