米中対立で揺れる国連と日本の役割

米中対立で揺れる国連と日本の役割 最終回

米外交を補佐し他国との橋渡しの役割担う日本

text by 魚谷俊輔

 

日本の「外交3原則」というものがあります。岸信介が1956年に発表しているのですが、その3原則の1番目が何かというと、日本は西側自由主義陣営の一員であるということです。これは具体的にはアメリカとパートナーシップを結んでやっていくことを意味しています。2番目がアジアの一員、アジアの近隣諸国と仲良くやっていくということです。3番目が国連中心主義であり、この3つの柱を立てたわけです。

これはいまでも基本的には変わらずに継承されています。当時の国連は安保理も総会も米国主導で動いており、日米関係の延長線上に国連があったわけです。まだ国連における中国の議席は台湾の蒋介石政権が占めていたので、この頃は1番目のアメリカとのパートナーシップと、3番目の国連中心主義との間には何の矛盾もなかった時代だったわけです。

日本の外交は安全保障の観点からは、2つの原則によって成り立っていると理解することができます。この2つの柱のうちの1つが日米同盟です。これは日米安全保障条約によって日本の平和と安全を守るということです。2つ目が国連中心主義です。国連の集団安全保障体制によって日本の平和と安全を守るということです。これを2大原則としているわけですが、これはアメリカと国連が何の矛盾もなく、協調している場合には両方同時に成り立つということになります。

しかし、もしアメリカと国連が矛盾し、齟齬が生じるようになったら、日本はどうするのでしょうか? その場合には日米同盟が本音で、国連中心主義が建前ということにならざるを得ません。なぜかというと、国連には日本を守るだけの実力がないので、こうならざるを得ないわけです。

結論として、日本の立場としては、日米同盟が日本の安全保障の基本なので、日本の政策は基本的にアメリカに歩調を合わせざるを得ません。そしてアメリカが国際協調を重要視し、国連とうまくっている状態が理想なのですが、現実はそうでないことが多いです。だからといって日本もアメリカのように「ジャパン・ファースト」と言えるかといえば、それはできません。なぜなら、日本は自国の力だけで国を守ることはできないからです。そもそも軍隊を持たないので、孤立主義や自国中心主義を取ることはできません。

もし憲法を改正すれば、もう少し違ったスタンスが取れるかもしれませんが、いますぐにはできないので、いまのところは平和主義と国際協調を基本に、日本独自の役割を果たすということになります。もしアメリカが単独行動や国際協調を乱す行動をとった場合には、どうしたらいいのかというと、日本はそういうアメリカでも補佐し、他の国との「橋渡し」の役割をしなければなりません。いってみれば荒ぶる夫をなだめる妻のような役割です。実は安倍首相はその役割を極めて上手にやったということになります。

では今後がどうなるかといえば、バイデン政権の外交政策がどうなるかにかかっています。トランプ政権で評価すべきところは、対中強硬路線です。これだけはっきりと中国に対してものを申して、毅然とした姿勢を示したアメリカ大統領はいなかったので、そこは評価すべきでありますが、しかし国際協調はめちゃくちゃにしてしまいました。バイデン政権はもう少し国際協調を重視するかもしれませんが、トランプほど中国に対して毅然とした姿勢を示せるかどうかはクエスチョンということになります。ですから、今後のバイデン政権の外交政策を注視しながら、それに合わせて日本の行くべき道を決定していかなければらない、というのが基本的立場になります。

(おわり)

米外交を補佐し他国との橋渡しの役割担う日本

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