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リアル・アメリカ〜知られざる政治経済・社会・メディアのいま〜 Vol.84

バイデン政権の国防予算要求は「本気度」が足りない

text by 渡瀬裕哉

バイデン政権の2022年予算教書が公表されたが、バイデン政権の国防予算は中国に本気で対抗する意思を示すものとは言えない。バイデン大統領が国家として大切にしていることを示したとした予算において、米国の国防力は大切していることの中には入っていないようだ。

事実上のマイナス査定となった国防予算

米国大統領が示す予算教書はホワイトハウスが示す国家ビジョンそのものである。トランプ政権の場合は国防総省や退役軍人省は予算増、それ以外の省は横ばいまたは予算削減という内容であった。そのため、トランプ政権の予算教書は民間経済と国防力強化に重点を置いていたことが分かる。

一方、バイデン政権が示した予算教書はトランプ政権とは全く真逆の内容であったと言って良い。総予算額6.4兆ドルという莫大な金額に膨れ上がっており、教育省は41%、商務省は28%、保健福祉省は23%、環境保護局は21%など、軒並み各省が予算要求額を伸ばしている中、国防総省の予算要求額は僅か1.6%増加しているに過ぎない。インフレ率を加味すると事実上のマイナス査定と言っても過言ではない。更に、この予算には基地等の気候変動対策として数億ドルが盛り込まれているなど、極めて馬鹿馬鹿しい支出項目すら存在している。

共和党は3~5%の国防予算の拡大を求めているが、実際バイデン政権の方針ではオバマ時代のように米軍の機能不全を招くことになりかねない。バイデン政権は同盟国とともに中国の軍事拡張主義に対抗する姿勢を示しているが、肝心要の米軍自体が腰砕け状態になりかねない予算要求の有様となっている。

台湾海峡の危機を前に国防体制の強化は急務

実際には予算教書を参考にしながら、連邦政府予算は連邦議会によって策定されていくので、バイデン政権の望み通りの予算が通過するわけではない。むしろ、予算教書は少し偏った内容で提出することで、連邦議会との交渉に備える意味合いもある。しかし、それにしても政権が送るメッセージとして国防を重視しない、というメッセージを世界に示すのはいかがなものであろうか。

今回のG7では初めて台湾海峡への言及がなされることになったが、海峡の安定を維持するものは言葉ではなく力である。G7でも確認されたように、英国やフランス海軍が日本に寄港する計画は好ましいものであるが、台湾海峡問題で日本が矢面に立つ形になる中で、米軍予算が事実上削減される事態は受け入れがたいものだ。バイデン政権が自由で開かれた社会というビジョンはペンではなく銃口によって担保されるというシビアな現実を受け入れていないとしたら大問題である。

日本政府も防衛費の問題では他国のことをとやかく言える状態ではないが、台湾海峡の現実的危機を踏まえて、日米で協力して国防体制を強化することは急務と言えるだろう。

(わたせ・ゆうや=国際情勢アナリスト)

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