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中国「歴史決議」採択で高まる軍事リスク

毛沢東・鄧小平に並ぶために習氏がめざすものとは

中国共産党の秋の重要会議、中央委員会第6回全体会議(6中全会)で11月11日、40年ぶりとなる新たな「歴史決議」が採択されました。習近平総書記(国家主席)を毛沢東、鄧小平に並ぶ「新時代」の指導者と位置づけており、習氏の長期政権実現に向けたプロセスは最終段階に入ったといえます。

決議は、習氏が総書記に就任して以降、同氏を「核心」とする党が「歴史的成果を上げ、総合的国力が新たな段階に飛躍した」と称賛しています。予想通り、習氏の功績をたたえる内容が多く取り上げられており、毛、鄧両氏と並ぶ偉業を成し遂げた、と権威付けしようとしているのです。

歴史決議とは文字通り、「歴史」を「決議」する、すなわち中国共産党の創建100年を評価するということです。自由民主主義のもとで暮らす私たちからすれば、歴史とは後世の人々が評価することであり、その評価は個々人によって異なるというのが普通の感覚ではないでしょうか。それを、今を生きる権力者が規定しようというのが中国共産党の「歴史決議」です。

過去2回をふり返れば、中国の歴史決議とは単に功績を称えるものではなく、自らの権力を絶対的なものにして次の大事業につき進むステップだと言えます。

例えば1945年、毛沢東は歴史決議の後に中国国民党との内戦を制し、中華人民共和国を建国しました。鄧小平は1981年の2回目の歴史決議の後に、社会主義経済のあり方を抜本的に変える「改革開放」を宣言し、香港、マカオを中国に取り戻しました。

こうして見ると、今回、習氏のもとで中国共産党が3回目の歴史決議を採択したのには、それなりの背景があったということになります。

国際社会で影響力を増す一方で、香港や台湾に対する横暴な振る舞いや、南シナ海などでの覇権的行動に懸念の声が高まり、欧州、アフリカでも「中国離れ」が進んでいます。国内ではIT分野などで巨大企業への統制や、忠誠心を高める教育の強化が指示され、深刻な人権侵害も報じられています。存在感の根拠となってきた経済力にも陰りが見え始め、社会の根底に未曾有の少子化高齢化問題という「時限爆弾」を抱えているのが中国の現在の姿です。

コロナ禍でしばしば西欧型民主主義や資本主義の限界が指摘されますが、されとて中国の社会主義がこうした課題に適切に対応していると信じる人はいないでしょう。「中国製造2025」「一帯一路」などの経済政策、新型コロナワクチン外交、気候温暖化政策…。どれも失敗続きといえます。こうした国際的な批判や国内の不満を抑えるためにも、現在の中国指導部の政策にイデオロギー的な根拠を与える必要があったと見ることができます。

とはいえ、日本にとって今回の歴史決議を軽視することはできません。すでに述べたように、歴史決議によって絶対権力を手に入れた指導者が次に向かった先は、いずれも戦争でした。「建国」の指導者・毛沢東、「富国」の指導者・鄧小平に対し、習氏が「強国」の指導者として真に肩を並べるためには、その絶対的な指導権をもって推し進める大事業が台湾併合や尖閣諸島奪取のための軍事行動であるとの指摘を否定することはできません。

日本としても、高まる軍事リスクを見据え、これに対応する能力をいかに高めるかを早急に検討し、憲法改正の必要性も含めた安全保障の議論に手をつけるべきです。

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中国「歴史決議」採択で高まる軍事リスク

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