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「脱炭素」リスクへの議論を避けるな

「オミクロン株」の出現に世界が翻弄されています。この新型コロナウイルスの新たな変異株は、回復基調にある世界経済に冷や水を浴びせたかっこうです。世界的な感染再拡大の懸念から、アジアや欧州市場でも軒並み株価が下落し、世界同時株安の様相となりました。

一方で、エネルギー価格の高騰が家計や企業の収益を圧迫しています。来年1月からは電気・ガス料金が値上げされる見通しで、原油や液化天然ガス(LNG)の世界的高騰に加え、円安ドル高の影響も受けています。

世界的な高騰の背景にあるのは、コロナ禍での生産活動の制約や傷ついた経済の急回復による需給バランスの崩れが主な要因ですが、脱炭素化への対応がコストを押し上げるなどして価格上昇を招く「グリーンフレーション」と呼ばれる現象の可能性も指摘されています。

欧州が中心となってエネルギー市場の再編を主張し、多額の資金を投じてきましたが、現状は悪化しています。

グリーンフレーションはいずれ落ち着くとの分析もありますが、エネルギー転換には相当の時間を要するため、いたずらに移行を急ぐとサプライチェーンの混乱を招きます。

中でも、スペインは家庭の電気代が前年比3割以上に跳ね上がりました。同国ではこの夏、風力発電量が大きく落ち込み、電力会社は火力発電をフル稼働させて補ったもののガスは需要増で急騰。さらにCO2を余計に出した分、市場から排出枠を買う必要に迫られ、その価格が年始から2倍に高騰した結果、ダブルの価格上昇のツケが消費者に回る結果になりました。

11月に国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を主催した英国でも同様です。フランスなど周辺国からも電気を買い集めたものの、それでも足りない状況です。

欧州以外にも、米国の一部の州では電力の安定供給に四苦八苦しているほか、中国でも経済の急回復で石炭の生産が追いつかず価格が急騰。電力供給が不足し、中国全土で電力不足が生じる事態となりました。

エネルギーの安定供給は全ての商品価格に影響を及ぼすだけでなく、政府機関やインフラの維持に直結する問題であり、国家安全保障と同等に扱われなければならないテーマであると再認識すべきです。

主要国がエネルギーシフトを進めた結果、設備を削減している石炭火力の発電量には限度があることから、主力を担ったのは天然ガス火力となりました。結果として、最大の供給国であるロシアが国際エネルギー市場で影響力を増している実態が浮き彫りになっています。

「脱炭素」の象徴としての太陽光発電、風力発電、電気自動車(EV)などの推進には、それを支える材料の大量調達が必要ですが、生産の多くを担っているのが中国です。その主要生産地に新疆ウイグル自治区や内モングル自治区が含まれていることから、脱炭素化の流れがこうした地域での新たな強制労働や人権抑圧につながるのではとの指摘も出ています。

翻って、日本。岸田首相はCOP26で、「クリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会を創り上げる」と宣言しましたが、「環境と経済の好循環」実現への具体策はまだ見えてきません。

「脱炭素化」実現の具体策を検討しつつ、「エネルギーの安定供給」「グリーンフレーション」「権威主義国家の台頭」といったリスクについても責任ある議論が求められています。

(y)

「脱炭素」リスクへの議論を避けるな

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