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民主主義の再生へ 日本もリーダーシップを

課題多い米主宰「サミット」に期待すること

バイデン米大統領が主宰する「民主主義サミット」が9日と10日の2日間にわたってオンライン形式で開かれ、約110の国・地域が招かれました。

サミットの冒頭、バイデン氏は「民主主義は世界中で憂慮すべき挑戦を常に受け続けている」と危機感を示し、民主主義を旗印に友好国との結束をはかる考えを強調しました。また、今回のサミットには台湾が参加し、民主主義陣営の一員であることを強く印象付けました。

ミャンマーの2月のクーデターやアフガニスタンのタリバンによる8月の政権奪取など、2021年は民主主義を揺るがす事件が数多く起こりました。

今回のサミットで米国がバイデン氏の下で指導力を回復し、中国・ロシアを念頭に「専制主義との戦い」を先導する決意を示した意義は大きいと言えます。

一方で、今回のサミットの顔ぶれには疑問の声も上がっています。米国務省が「重大な人権問題」を有すると指摘するフィリピンやパキスタンが招かれた一方、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコや、民主主義制度の弱体化が進んでいるとされるハンガリーは招待されませんでした。民主主義国家かどうかの線引が曖昧で米国の利益で選んでいるというわけです。

民主主義サミットの開催について中国は、「冷戦的な思考の産物でイデオロギー的な対立と世界の分断をあおる」と強く批判しているほか、ロシアも「新たな境界線をつくる試みだ」などと厳しく非難しています。

国際社会からは、サミットを開催した今の米国について、民主主義陣営のリーダーと呼ぶことができるのかとの指摘もあります。こうした指摘は、政治の深まる党派対立、社会の中の根深い人種・民族対立、広がる一方の経済格差など、米国内の課題を例になされています。

米国内でも、議論や手続きに時間がかかる民主主義よりも政策の決定・遂行が早い強権的な手法を歓迎する声が増しているのが現状です。

こうした米国の現状を見透かして、中国は民主主義サミットに合わせるように、4日、「中国の民主」という白書を発表し、「中国には中国の民主主義がある」との主張を展開しました。

後退する民主主義と強化される権威主義を目の当たりにして、私たちは今こそ民主主義とは何かを再確認することが必要があると思います。国民主権・基本的人権を尊重し、表現の自由や信教の自由を保障などです。

翻って、日本はどうでしょうか。

岸田文雄首相はサミットでの発言で、基本的価値観を傷つける行動には、有志国が一致して対処する重要性を強調しました。

日本は自由で開かれたインド太平洋構想を推し進め、民主主義を普遍的価値と位置付けてきました。民主主義陣営の結束と強化を、米国だけに任せるのではなく、日本も民主主義を再生させるリーダーシップを取り、米国と共に先頭に立つべきです。

理念は共有しても、いざ政治となると「国益」という観点が強調され、現実の行動ではダブルスタンダードが展開される――。そんな世界的潮流の中で、民主主義サミットによって今後、「それでもなお自由で幸福な社会の実現は、寛容、議論、合意という民主的プロセスを通じてのみ可能だ」という確信が共有されることを期待します。

(H・S)

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