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ウクライナ危機は「対岸の火事」ではない

求められる日本の毅然とした姿勢

ロシアがウクライナとの国境付近に数万人規模の部隊を集結させてからおよそ3カ月が経過しました。近く侵攻に踏み切るのではないかとの懸念が日々強まっています。欧米が部隊の撤収を再三求めていますが、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)不拡大の法的保証を要求し、対立が続いています。

米国防総省は2日、米軍約3000人を東欧のNATO加盟国に派遣すると発表しました。ロシアが数万人規模の兵力をウクライナ国境に集結させるなか、NATO加盟国の防衛を強化する狙いがあります。

米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領は昨年末にウクライナ情勢について電話会談をしました。バイデン氏は、ロシアがウクライナに侵攻すれば「断固とした措置を取る」と制裁発動を改めて警告。それに対してプーチン氏は対抗措置を示唆していました。

侵攻をちらつかせる一方で、プーチン氏はNATO加盟国の首脳との個人外交を活発化させています。1日には親ロ的とされるハンガリーのオルバン首相とモスクワで会談し、天然ガスの輸入を増やす方針を確認しました。

もともと旧ソ連圏のウクライナは欧州とロシアの境界に位置し、双方の影響力に翻弄されてきました。国内でも親ロシア派と親欧米派が対立しています。2014年にはロシアがウクライナに侵攻して南部クリミア半島を武力で一方的に編入しました。

19年にウクライナでゼレンスキー大統領が就任し、NATOへの加盟を目指す親欧米路線を強めるようになると、ロシアは軍事的な圧力を強化して対抗する姿勢を示してきました。

昨年7月には、プーチン氏自ら「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題する論文を発表。ウクライナとロシアの国民は「一つの民族」と強調する内容で、何としてもウクライナをロシアの勢力圏に押しとどめたいとの強い意向が反映されています。

昨年12月以降は、ロシアは米国やNATOに対して「NATO東方不拡大論」を唱え始めました。旧ソ連圏のなかでも経済、人口ともに最大のウクライナは、ロシアにとって欧米の「東方拡大」に対するいわば最終防衛ライン。ウクライナがNATOに加盟すると自国の安全保障が決定的に損なわれると懸念しています。

このように一方的な現状変更を試みるロシアに対し、日米欧が結束して行動できるかが試されています。

この問題が日本にとって重要なのは、中国がこのウクライナ問題について、日米欧がどういった出方をするのかを注視しているからです。日米欧の出方次第では中国による台湾侵攻の抑止にも影響が出る可能性があります。

岸田文雄首相は1月26日の衆議院予算委員会で、緊迫するウクライナ情勢について言及しましたが、「国境周辺地域のロシア軍の増強などを重大な懸念を持って注視している。先進7カ国(G7)など国際社会と連携して、適切に対応していかないといけない」と述べるにとどまり、日本として具体的な方針を打ち出せていません。

ウクライナ情勢について日米が弱腰な対応をするのであれば、中国は台湾についても日米が強い態度を取れないと判断するでしょう。

この問題は日本にとっても「対岸の火事」ではありません。日本は毅然たる態度で国際社会の一員として責任ある姿勢を明確に示すべきです。

(H.S)

ウクライナ危機は「対岸の火事」ではない

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