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ウクライナ侵攻で瓦解の危機に瀕する国際秩序

国連は本来の役割を果たせず機能不全

ロシアは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻を開始しました。これに対してウクライナ軍も激しく抵抗していて、各地で戦闘が行われています。ウクライナ難民は100万人に達し、民間人の死者は2000人に及んでいるといわれます。

ロシアのウクライナ侵攻については、国際社会がこぞって非難しています。

国連安全保障理事会は25日、ウクライナ情勢を巡る会合を開き、武力行使の即時停止と撤退などを求める安保理決議案を採決しました。非難決議案は賛成多数を確保しましたが、常任理事国のロシアによる拒否権発動で採択できませんでした。この時中国、インド、アラブ首長国連邦(UAE)の3カ国が棄権しました。この様子を見ても国連が戦争防止や紛争解決の役割を果たせておらず、機能不全に陥っていることが分かります。

国際社会は経済制裁によってロシア経済に打撃を与えるべく、欧州連合(EU)とその主要国である仏、独、伊、そして米、英、カナダは26日になって、銀行間国際決済ネットワークである「SWIFT」(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)からロシアの主要銀行を排除する方針で合意し、海外との貿易決済を難しくする制裁を発動しました。日本政府も27日、この制裁措置に参加すると発表しました。

国際社会のみならず国内でも抗議の声が上がっています。モスクワでは24日夜、中心部に1000人以上が集まり、「NO プーチン 戦争反対」「恥を知れ」などと叫びました。ロシア治安当局は相次いで参加者を拘束して抗議の拡大を抑え込もうとしており、28日時点での拘束者数は6000人を超えています。ウクライナ侵攻はロシア国内の支持を得ているとはいえません。プーチン大統領はいまや、国際社会からの非難だけでなく、国内の反発への対処も迫られている状況です。

プーチン体制の存続そのものに疑問符がついたとの声が聞こえる一方、当のプーチン氏は27日、北大西洋条約機構(NATO)主要国からのロシアに対する「攻撃的発言」を理由に、核戦力を運用する部隊を「特別態勢」に置き、警戒を強化するようショイグ国防相らに命じました。戦闘態勢に入ったとされる部隊は欧米を攻撃できる核戦力を有しているとされています。

また、ロシアは「共闘」を宣言しているベラルーシへの核配備を準備しているといい、情勢は一段と深刻さを増しています。

情報戦やサイバー戦などを組み合わせたハイブリッド戦争が取り沙汰される今日、私たちの目の前で繰り広げられているこの惨状は、力で現状変更しようとする前世紀的な戦争そのものです。ウクライナ侵攻のみならず、尖閣諸島や台湾関連の有事など、国境の壁を超えて他国の侵略を試みる動きは私たちのすぐ隣りにも迫ってきています。

武力で隣国を属国にしようとする強大国の野望を許せば、長年築いてきた国際協調体制は一瞬にして瓦解し、世界はまたしても暴力の世紀に後戻りすることになります。

28日から行われた国連総会緊急特別会合で、グテーレス事務総長は「(戦争は)無意味な破壊であり、気候危機と生物多様性の損失、パンデミックからの極めて必要な社会経済的回復、人種と性別の隔たりの回復、その他多くの21世紀の緊急課題という、人類が直面する真の課題から多大な目をそらせるものだ」と述べて、平和の必要性を訴えました。

国際社会が一丸となって平和の道を選ぶのか、それとも破滅的な第三次世界大戦を招くのか。今回のウクライナ侵攻は国際秩序の大きな転換期となるでしょう。

(H・S)

ウクライナ侵攻で瓦解の危機に瀕する国際秩序

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