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ウクライナ侵攻が招く世界的な食料危機

今こそ国際協調主義について再考を

ロシアのウクライナ軍事侵攻が長期化するなかで、穀物価格が高騰し続けており、世界的な食料危機が深刻になっています。

主食となる小麦の輸出量では、ロシアが世界第1位、ウクライナが第5位。この両国で世界の約3割を占めていますが、長引く軍事侵攻により輸出が停滞しています。

ウクライナからは、南部オデッサ港からトルコのボスポラス海峡を通るのが主要な輸出ルートですが、ロシア側によって黒海沿岸の港が封鎖され、2000万トン以上の穀物がウクライナ国内に留め置かれたままになっています。

世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長は、「ウクライナの穀物サイロ(貯蔵庫)は満杯。一方で、世界中で4400万人が餓死に近づいている」と強い懸念を示しています。

とりわけ、ロシアとウクライナからの小麦輸入への依存度が高かった中東・アフリカ諸国への打撃は大きく、WFPはアフリカ東部で飢餓に苦しむ人々が、今年1500万人から2000万人に増える恐れがあると警鐘を鳴らしています。

こういった状況を受け6月3日、ロシアのプーチン大統領とアフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領がロシア南部ソチで会談。サル大統領はロシアによるウクライナ侵攻の影響でアフリカの食糧事情が悪化していると訴えました。

支援は急を要しています。6月26~28日にドイツで開かれる先進7カ国(G7)サミットでは「食料安全保障」が主要な議題となる見通しです。ウクライナが円滑に鉄道や車による陸路での輸送や海上輸送できるようG7が後押しする方針も盛り込み「食料のための人道回廊」設置の実現を提唱するとしています。

影響は日本にも波及しています。小麦や大豆などの価格が上昇し、国内でもカップラーメンやパンなど多くの食品に値上げの動きが広がっています。

日本の食料自給率(カロリーベース)は直近で37%とG7国家の中で極端に低く、食料の半分以上を輸入に頼る日本にとって食料安全保障は事が起きる前からしっかり備えておく必要があります。

すでに、政府は過度な輸入依存から脱却することや、小麦や大豆、トウモロコシなど輸入に依存している穀物について、国内での大幅な増産を支援することなどを盛り込んだ提言案を示しました。

また、一部の国では、世界的な穀物の価格上昇を受けて各国は国内の物価高に対応するため、主要な食料の輸出禁止を打ち出し、国内供給を優先する政策をとっています。

インド政府は5月13日、国内の供給量を確保するためとして小麦の輸出を禁止すると発表。24日には今年度の砂糖輸出量を1000万トンに制限すると発表しました。

このような「食料保護主義」の動きが助長され、加速する世界的なインフレに拍車をかける懸念も強まっています。問題がさらに悪化し、より広範な貿易戦争につながりかねません。

テロや気候変動、貧困など、国境を超えた課題は、一国だけで解決できません。食糧問題もまたしかり。

資源を持っている国と持っていない国で格差が広がり、多国間の枠組みが機能しにくくなっているからこそ、、国連を中心とした国際協調主義をどう提示していくのか、制度を見直し、実効性を高めることが課題といえるでしょう。

保護主義が広がった時代に持続可能な世界は実現するのでしょうか。

国際秩序が揺らいでいる世界の中で、私たちはもう一度、国際協調主義について再考し、地球規模の課題を克服するために知恵を出し合わなければなりません。

(H・S)

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