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グーグルによる職員解雇の何が問題なのか


米グーグルによる従業員の解雇をめぐって大きな論争が起きています。この従業員はジェームズ・ダモア氏。ダモア氏は同社の「多様性、包含性」方針について疑問を投げかける文書を社内で公開、その後、社内の掲示板で賛否両論が巻き起こっていました。

文書の中で、同氏は「技術職や管理職に女性が少ないのは差別ゆえではない」と述べ、男女に生来の違いがあることがその原因だと主張しました。また、「男性はモノに、女性は人に関心を持つ傾向がある」「女性はストレス耐性が弱く、ストレスの多い仕事には向かない」などと指摘し、「平等な割り当てを実現するための取り組みは、むしろ不公正で対立をあおり、事業にもマイナスになる」と書きました。

グーグルの上層部は、これを「社内の特定集団(女性)を侮辱するものだ」と判断し、彼を解雇したといいます。

この問題は大きく2つの論点を持っています。1つ目は「男女の違いと平等」について、2つ目は「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)による異論の封殺」という問題です。両者は「過激なフェミニズム」を媒介に深くかかわっていますが、順番に考えていきましょう。

男女の違いと平等について

まず、一つ目の「男女平等」についてですが、ダモア氏の指摘が正確かどうかは別として、私たちは「男女の違いを指摘することも『差別』」とするような過激なフェミニズムから、そろそろ脱却すべきです。

実際に、男女には様々な違いがあります。米シンクタンクAEIの調査によると、コンピューター・サイエンスやエンジニアリング専攻の80%以上が男性であり、逆に、心理学専攻は女性が75%と圧倒的多数を占めています。専攻を選んだのは個々人の選択であり、この偏りの原因は差別ではありません。また、最近では「スマホ依存」が世界的課題になっていますが、ここでもゲーム依存の9割が男の子といわれており、女の子の多くはSNSに関心を向けています。

もちろん、ダモア氏も指摘しているように、これはあくまでも全体的な傾向であり、技術職に向かない男性もいれば、リーダーシップに優れた女性もいます。したがって、人材配置についてはあらゆる分野で男女同数にすべきだという極端な方針ではなく、あくまで適材適所、組織にとってのコストと利益、個人の要望や適性を踏まえて行われるべきなのです。その結果、職種などによって、男女数の偏りが出てくることは容認すべきでしょう。一方で、不当な職場慣行や、女性蔑視の文化があれば、当然、改善すべきです。

もし、機械的に同数にしようとすれば、多くの矛盾が生じるでしょう。家庭と仕事の問題も同様で、男女平等の考え方が強い米国の高学歴層でも、夫婦の収入比は「7:3」で、男性が仕事、女性が家事を、主に分担する傾向は変わりません。男女平等にとっては、男女が、全く同じように働くことよりも、家事や育児に正当な社会的評価が与えられることのほうが重要なのです。「役割分担」それ自体が「差別」という考え方は、あまりにも極端です。

「政治的正しさ」による異論の封殺

ダモア氏は、グーグルの極端で権威主義的な社内文化も批判しています。同氏によると、同社内では左寄りの政治的意見(男女の区別を否定するフェミニズムを含む)が過剰に崇拝されており、反対意見をもつ人は、辱めを受けたり、解雇されることを恐れて沈黙するしかなくなっているといいます。これをダモア氏は「思想的なエコーチェンバー(残響室)」と呼びました。エコーチェンバー現象とは、閉じた空間で、同じ意見ばかりが交わされ、いつの間にか、それが正しいことだと思い込んでしまう現象です。

こうした状況は、実はグーグルだけに限りません。多くの西側先進国と同様に、米国の知的空間は、大きく左に偏っており、右寄りの保守には限られた居場所しかありません。この問題については、昨年5月、ニューヨーク・タイムズでニコラス・クリストフ氏が取り上げています。同氏は大学界における保守派差別について、次のようなデータを紹介しました。

•共和党系の教授は、人文学部では6-11%、社会科学の分野では7-9%しかいない。
•社会科学分野の研究者の1/3が、同じ能力があっても、保守的な人間を職員候補から外す。
•人類学教授の59%は、福音主義者を雇用しない。
•ロースクール受験のマニュアルには「読解の質問は、一般的にリベラルな回答を求める傾向がある」と書かれている。

大学やメディアなどは、圧倒的に左寄りの知識人に支配されており、進級や採用、ポストの提供にすら左のバイアスがかかるため、米国の主流の言論空間で保守的な主張をすることは困難になっています。一方、米国社会全体では、大統領選挙の結果を見ても分かる通り、左(リベラル、民主党支持)と右(保守、共和党支持)の人口は、ほぼ拮抗しており、一般的な世論と、主流メディアの論調には乖離があります。昨年の大統領選挙で、日本のメディアや知識人が、ことごとく予想を外した原因もここにあります。

現実として、米国では、左寄りの「政治的に正しい」主張から外れるものは、社会の主流から徹底的に排除されており、ダモア氏の解雇も、その延長線上にとらえられるでしょう。これこそ、一種の「差別」であり、政治的意見の多様性を否定する思想統制です。LGBTをめぐる議論においても同様で、同性婚に疑問を呈するような発言をすると、すぐに訴訟や解雇などのリスクに直面します。日本でも似たような状況が生まれつつありますが、異論を封じる社会は決して健全とは言えません。

グーグルは思想的多様性を認めるべき

検索において圧倒的なシェアを持つグーグルは、独自のアルゴリズムを用いて上位に表示するコンテンツを決定しています。そして、その目的は、情報をより有用なものにすることだとされています。しかし、その価値判断の基準に左寄りのバイアスがかかっているとすれば非常に問題です。

実際、昨年の大統領選挙の最中には、フェイスブックが話題のニュースを表示する際に、保守派関連のニュースと意図的に排除していたという疑惑が持ち上がったことがありました。昨年秋には、グーグル傘下のユーチューブが保守的な教育ビデオを検閲し「潜在的に人を不快にする」として規制を加えました。フェイスブックの場合、ザッカーバーグCEOが保守派の有力者と会見を行うなど、急いで火消しに走りましたが、世界的に影響力を持つ情報関連企業に思想的中立性が求められるのは当然のことです。

現在、グーグルは世界中に存在するコンテンツの、事実上の「裁定者」となっています。彼らが真に取り組むべきことは、技術分野などで男女の比率を同等にすることではなく、意思決定のプロセスに思想や視点において多様な見方を持つ人材を組みこむことかもしれません。(O)

グーグルによる職員解雇の何が問題なのか

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