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人民の不満かわし「力による支配」推し進める習近平体制

共産党大会を前に次世代リーダーが突然の失脚


中国指導部の次世代リーダーと目されていた重慶市のトップ、孫政才・同市共産党委員会書記が失脚しました。中国共産党の不正を取り締まる中央規律検査委員会は7月24日、孫氏を「重大な規律違反」で取り調べていると発表しました。孫氏は2012年に49歳の若さで党指導部である政治局員(25人で構成)に抜てきされた若手のホープで、今秋の党大会(19大=中国共産党第19回全国代表大会)では最高指導部である政治局常務委員(7人)入りを目指していたとされます。習近平国家主席の後継候補の一人とみなされてきただけに、中国政界に激震が走りました。

孫氏の調査の対象は何だったのでしょうか。

まず指摘されているのは、重慶市での前任者、薄熙来氏の事件(汚職などで2012年に失脚。現在、無期懲役で服役中)の事後処理が不徹底だったとされている点です。昨年11月には、党中央から派遣された反腐敗の特捜チーム「巡視組」が2カ月にわたって調査。「薄らが残した毒の除去が徹底できていない」との評価が加えられ、その様子が中国国内のメディアで報道されました。

もう一つは、孫氏周辺の相次ぐ汚職疑惑の問題です。妻である胡穎氏が、今年5月から取り調べを受けているほか、重慶市の副市長兼公安局局長で孫氏とも親しかったとされる何挺氏が、同じく汚職の疑いで6月に罷免されました。これらの問題に加え、今回は自身も汚職などの重大な規律違反の疑いが濃くなったとされています。

今回のケースは、習氏が政権2期目を迎える党大会を控え、次期指導部から障害を排除する一環だと見られています。孫氏の後任として、いち早く習近平人脈の陳敏爾氏(貴州省党委員会書記)の起用が発表されたことなどから、日本のメディアの多くは孫氏失脚を「権力闘争」として報じています。

昨日3日までに党の指導部や長老らが毎年夏に河北省・北戴河に集まり、重要人事などを非公式に話し合う「北戴河会議」が始まった模様です。指導部が大幅に入れ替わる党大会を控え、側近らの登用を進める習氏が思い通りの人事構想を長老らに認めさせることができるかが焦点といわれています。

一方で、孫氏は特定の派閥には属していなかったとされ、いわゆる「共青団(中国共産主義青年団)派」や「江沢民派」といった派閥の論理で習氏との対立を説明できないことから、今回の措置は、共産党の一党支配体制が崩壊するか否かの闘いに過ぎない、との分析もあります。2期目となる指導部の発足前に、「反腐敗」の徹底と高官の不正に厳格に対処する方針を党内に印象付ける狙いというわけです。

いずれにせよ、習氏の最大の懸念は、国内政治の腐敗や経済の混乱が引き起こす「人民の反乱」です。こうした不満をかわしながら、指導部メンバーが大幅に入れ替わる秋の党大会に向けて自身の権威や求心力を高める目的で、今後、習氏が対外的にますます「力による支配」を強めることは間違いないでしょう。

すでに、7月に入ってから中国の脅威は新たな段階に入っています。2日には中国海軍の調査艦が津軽海峡周辺の日本の領海に侵入しました。さらに15日、17日には中国海警局の公船が対馬海峡や津軽海峡の日本の領海内を侵犯しています。

習氏はまた、30日に内モンゴル朱日和基地で開かれた中国人民解放軍創設90周年記念閲兵式に迷彩柄の戦闘服姿で登場。演説では、「人民解放軍は、軍に対する党の絶対的指導を必ず堅持しなければならない」と述べ、党への忠誠を重ねて要求しました。

日本としては、多くの国内問題を抱える中国が、国家と中国共産党体制を維持するために「海洋強国」となって外へ国益を拡大するしかない現状をきちんと認識して、今まさに目の前に迫っている脅威として対処していかなければなりません。(S)

人民の不満かわし「力による支配」推し進める習近平体制

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