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「虐待入院」の寂しさにふるえる子供たち

「よき家庭人」の育成が日本の未来をつくる


厚生労働省が「虐待入院」の実態調査を実施することを決めました。虐待や育児放棄を受けて入院したのち、治療が終わっても、親元に戻せず、施設にも入れない子供たちが、病院での生活を余儀なくされているのです。NHKが入手した調査資料によると、こうした子供たちの数は、少なくとも356人(2015~16年)に上ります。このうち1か月以上の長期にわたったケースが34人、半年以上も3人いました。

児童相談所の人手不足、受け入れ施設に空きがないなど、様々な要因が指摘されていますが、長期の虐待入院は子供の発達に深刻な影響を与えます。虐待問題に携わる奥山眞紀子氏(国立成育医療研究センター部長)は、NHKの番組(『クローズアップ現代』)で「子供は1対1の人間関係の中で守られることを通して人を信頼する能力を身に付ける。乳幼児期に様々な人が関わって、1対1の信頼関係を築けなければ、将来的に人間関係をうまく結べない可能性がある」と指摘しました。

また、施設に比べて病院は出入りが比較的自由であるため、親が入院中の子供に再虐待をするリスクもあるといいます。番組内では「親との面会後に新たな骨折が見つかった」「母親が子供の点滴に排泄物を混入した」などという信じられない事例も紹介されました。少子化が進み、ただでさえ少ない子供たちが、こうした状況に置かれていることは憂慮すべき事態です。

一方で、奥山氏が「日本は施設に頼りすぎてきた。家庭、つまり里親を増やすことが必要だ」と述べているように、やはり子供にとっては、施設や病院ではなく、信頼できる「親」がいる「家庭」で育てられることが最善なのです。国などの行政が実施できるのは、あくまで「子育て支援」であって、子育て自体は、子供と1対1で向き合う親、あるいは親代わりの「家族」によってなされなければなりません。

行き場をなくした子供たちのために「里親」を増やすことも必要でしょう。同時に、そもそも虐待をせず、子供を心からの愛情をもって育てることのできる「実の親」たちを育てていかなければなりません。しかし、現在の教育には、よき夫婦、よき父母になるための教育が決定的に欠けています。もちろん、教員養成課程においても、生徒を「よき家庭人」に育てるための資質やスキルを磨くカリキュラムはありません。学校教育に期待できる部分は限られているのです。

ここに、私たちが、草の根で「よき結婚・家庭文化の醸成」運動を進める意義があります。子供たちが「よき家庭人」として育っていくためには、周囲の大人たちが「よき家庭人」としてのモデルを示し、地域の日常生活の中で感化を与える必要があるからです。あわせてお互いの家庭に関心を払い、虐待が起こらないよう、特に「子育て家庭」を暖かく見守り、支援することが大切です。子育てをする若い夫婦と友達になり、相談相手になってあげることから始めてもいいでしょう。

最後に、NHKに寄せられた「虐待入院」を4か月間経験した女性の告白を紹介します。「入院して救われたと思っていました。しかし、そばにいてくれる人も、遊んでくれる人も、ゆっくり話を聞いてくれる人もいませんでした。本当に、本当にさびしかったです」。

未来を担う子供たちに、これ以上寂しい思いをさせてはなりません。愛情にあふれた家庭や地域をつくることは、私たち大人、一人一人に課せられた責務です。(O)

「虐待入院」の寂しさにふるえる子供たち

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