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「お金」が変わると「国家」も「個人」も変わる?

「仮想通貨問題」が私たちに投げかけるもの

仮想通貨取引所大手「コインチェック」から、顧客26万人の口座に保管されていた約580億円相当の仮想通貨「NEM(ネム)」が不正アクセスによって外部に流出しました。約480億円相当が盗まれたマウントゴックス事件(2014年)や約770億ウォン(約78億5000万円)の損失が出た香港のビットフィネックス事件(16年)を上回る過去最大規模の損失額です。海外メディアは仮想通貨がハッカーの「新たな標的」になったと報じています。

仮想通貨はネット上で取り引きされる財産的な価値がある電子データで、そこに中央銀行のような公的な管理者はいません。現在、約1500種類が流通していると言われ、時価総額は約55兆円に上ります。

その代表的な存在がビットコインです。もともとは、通常の通貨による銀行取引より安い手数料で、簡単・迅速に決済、送金する仕組みを目指すとして始まったものですが、超低金利が続く中、最近では投機の対象として巨額資金が投じられるようになり、価格の乱高下も目立つようになりました。また、海外への資金流出やマネーロンダリング(資金洗浄)への懸念から、世界的に規制強化の動きも目立っています。つい1月30日には、米フェイスブックが詐欺的行為を助長しかねないとの判断から、仮想通貨や同通貨を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)に関する広告を全世界で禁止すると発表しました。

早急に、安全管理体制の整備と顧客保護の方策が求められています。

ただ、ここで同時に考えたいのは、仮想通貨の登場が私たちに投げかけているもっと根源的な問題、すなわち経済価値や国家システムの未来についてです。

通貨は従来、国家への信用を基盤に使用されるものでした。しかし、仮想通貨は暗号化されたセキュリティシステムを持つパブリックなデータベース「ブロックチェーン」(分散型台帳技術)に信頼を置くことで、世界中の人々が使えるようにしたものです。すなわち、仮想通貨の特徴は、ネットワークに「中枢を持たない」点にあります。

実際、仮想通貨の開発者たちの多くはリバタリアン的な信念を持っており、政府や大手金融機関の支配から離れて自由な経済圏を作りたいという夢を抱いていると伝えられています。仮想通貨の流通の先には、ボーダレスで非中央集権的なシステムへの憧れが内包されているといえるでしょう。

グーグルやユーチューブでおわかりのように、検索や動画投稿それだけではなにも経済的利益を生み出しません。しかし、個人がそのプラットフォームの中で巨大なネットワークを構築する時、そこに経済が生まれ、一国家を凌ぐボーダレスな影響力が生まれます。

同様に、仮想通貨の浸透は、国家や中央銀行に託していた信頼が、テクノロジーの力を借りて少しずつ個人に移っていく(あるいは戻っていく?)ことを意味します。

だとすれば、その功罪を論じる一方で、私たちにとって国とは何か、経済とは、豊かさとはといった価値について見直してみる契機となるかもしれません。

(K)

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