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「事実婚」に対する公的認証は必要か?

一夫一婦の婚姻制度が子供を守る


またしても、結婚・家族のあり方をゆがめるような政策が実施されようとしています。8月、千葉市が同性カップルや事実婚カップルを対象にパートナーとして公的に証明する制度を導入すると発表。公営住宅入居など正式な夫婦、家族に準ずる扱いを受けられるよう検討し、社会への波及効果も期待するとしたのです。今回はその中でも「事実婚」について、正式な結婚と同等に扱うことが果たして適切なのか、考えてみたいと思います。

結婚せずに事実婚を選択するカップルが多い欧米では、20世紀終盤からフランスの「パックス」制度をはじめ、事実婚カップルに社会的な地位を付与する動きが進んできました。その結果、事実婚カップルのもとに生まれる子供も増加。次第にマイナス面が顕在化してきました。

米国の研究者ブラッドフォード・ウィルコックスが外交誌「フォーリン・アフェアーズ」に寄せた論文の中で、この問題に触れています。彼が問題にしたのは、正式に結婚した夫婦と比べて、事実婚のカップルは簡単に関係を解消したり、新しいパートナーに乗り換える傾向があるという点です。

彼は、事実婚が広く定着している欧米諸国を中心に統計を集めて分析しました。その結果、大多数の国で、正式な婚姻カップルに生まれた子供と比べて、事実婚カップルに生まれた子供が、幼いころに「家族の変動」を経験する割合が高くなっていることがわかりました。つまり、自我が十分に安定する前に、お父さん、お母さん、兄弟などが、失われたり、入れ替わったりしてしまうのです。当然、ひとり親になる確率も高くなるため、貧困のリスクも増加します。彼は、不安定な家庭で育つことが子供たちにどれだけマイナスの影響を与えるか、各国の例を挙げました。

 ・親が別離した家庭の子供は、暴力や不品行で処罰される割合が増え、薬物乱用に陥るリスクも高い(ノルウェー)
 ・幼少期の両親の別離によって、20、30代前半になってメンタルに否定的な影響が表れる(英国)
 ・親が別れた家庭の子供は、大学で学位を得る割合も低くなる(欧州14か国)
 ・家族の不安定性は、子供の死亡率を20%引き上げる(アジア、アフリカ、南米)
 ・養育者の移行を経験した子供は、より低年齢で性体験に走る傾向がある(ケニア)

あらゆる文化で婚姻制度が社会の基礎となっていることには理由があります。次世代を担う子供たちにとって、実の両親がそろって育児をすることが最善だからです。日本では明治時代に婚姻制度が民法で規定されて以降、離婚率が劇的に低下。さらに戦後は、女性の地位向上に伴って男性の不倫、浮気にも厳しい目が向けられるようになり、世界でもまれにみる一夫一婦の安定した家庭が営まれる国になりました。それが一億総中流といわれるほど安定した社会を作り、優秀な人材を輩出する基盤になってきたことを忘れるべきではありません。

実際に、婚外子(婚姻届を出していない男女間に生まれた子)の比率が30〜50%に達する欧米とは異なり、日本ではわずか2.3%(2015年)。つまり、98%の親が正式に結婚してから子供を産んでいるのです。「できちゃった婚」という言葉がありますが、日本人の大多数は、少なくとも妊娠したとわかった段階で「きちんと結婚して正式な家族となって赤ちゃんを迎えてあげよう」という心を持っています(もちろん正式に結婚してから子供を設けるのが最も望ましいのですが…)。

こうした「結婚文化」を軽んじて、あえて「事実婚文化」に誘導する必要がどこにあるのでしょうか? むしろ、最近では、離婚が増えることで子供たちの養育環境が悪化しているため、社会全体であらためて「結婚」の価値を見直し、家庭再建に取り組む必要性が増しています。もし、結婚と同様の保護を受けたいと思うのであれば、正式に婚姻届を提出し、貞操義務や相互扶助など、民法に規定された責任もあわせて引き受ければいいだけのことです。

先のウィルコックス氏は、結婚制度の崩壊が「多くの子供たちを、乱れた家族の激流に放り込むことになる」と警告しました。固い絆で結ばれた夫婦、両親こそが、子供たちが最も必要とするものです。事実婚の保護を打ち出すなど「家族の多様化=結婚制度の弱体化」を促進するのではなく、結婚制度を維持、強化することこそ、行政の果たすべき役割ではないでしょうか。

(O)

「事実婚」に対する公的認証は必要か?

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