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育児世代の親に包括的支援が急務

後を絶たない児童虐待 児相通告数は上半期最多


今年3月に東京都目黒区に住む船戸結愛ちゃん(当時5)が両親から虐待され死亡した事件。私たちの記憶から離れません。しかし、その後も虐待事件は後を絶ちません。

警察庁が今月4日に発表したところでは、全国の警察が今年上半期(1〜6月)、虐待を受けているとして児童相談所(児相)に通告した18歳未満の子供は3万7113人で過去最多となりました。また、生命に危険があるなどとして、保護した子供は2127人に上りました。

過去最多となる通告数について、警察庁は「世の中の意識や関心が高くなってきたから通報が多くなってきた」などと述べていますが、仮にそうだとしても、これまで表に出なかった虐待がこれほど存在していたのだとしたらおそろしいことです。

結愛ちゃんの事案を受けて、厚生労働省の専門委員会が検証を行い、「結愛ちゃんが暮らしていた香川県の児相と転居先の東京都の児相は、ともに虐待リスクの認識が甘く、転居時の児相間の引き継ぎも不十分だった」との報告書を3日、発表しました。

これに先立つ7月には、政府が児童虐待防止の緊急対策を決定。虐待通告から48時間以内に面会などで安全が確認できない場合、児相が立ち入り調査を実施するとともに、警察との情報共有を進めることをルール化しました。

再発防止に向け、政府、自治体や児相などによる細かいリスク評価や引き継ぎ時の情報共有の徹底がすすむなか、今後は虐待そのものの判断を正確に行い、虐待を未然に防ぎ、親子関係、家族関係を回復に向かわせるための取り組みも必要になってきます。

長年、児童虐待防止に取り組んでいる専門家は、「虐待の有無は子供の表情や親の態度、言動などから総合的に見極めるもの。共有を進めても最終的には膨大な案件の中からリスクの高さや緊急性を判断しなければならず、警察も専門的な知識を身につける必要がある」と指摘しています。

虐待とされる行為の範囲を広げて親権の制限や処罰を強化する一方で、そのような家庭を救済したり、親たちがそのような行為に及ばないように家庭環境を安定させるための取り組みが圧倒的に不足しているのではないでしょうか。

多くの場合、親は子育てに対する十分な教育や情報を得られないまま、出産と同時に「母」もしくは「父」となります。二世代、三世代家庭が減少し、地域コミュニティのつながりも弱くなってしまった現代では、なおさらそうした親としての学びの機会は限られてしまいます。

親としての学びの場をつくる試みは民間や一部の地方自治体で始まっていますが、国全体の取り組みとして広げたいものです。

さらに、私たちは虐待を犯してしまった親のケアにも目を向けなければなりません。虐待問題は、親を処罰すれば終わりというものではないからです。

子供に対する虐待は多くの場合、これまで自身が他者から尊重されなかった痛みや悲しみを、怒りの形で子供に向ける行為です。虐待という加害行為からの回復は、単に育児スキルや子供への謝罪で解決されるものではありません。親自身の人間性の回復を支援することが必要であり、そのためには心身の苦しみを共有してくれる仲間や専門家(臨床心理士、看護師、助産師、保育士、ソーシャルワーカーなど)の助けが必要です。

いうまでもなく子供の生命、安全確保は最優先です。虐待を受ける子供に「まず隠れなさい、逃げなさい」とアドバイスする専門家や有識者もいます。

一方で、虐待された子供の大半は、親から虐待されても、その親を求め、慕い、いつか変わってくれることを願っているのではないでしょうか。あれほどひどい虐待を日々受けていた結愛ちゃんも、親を愛していました。実の親と暮らしたいと願う子供たちの気持ちに向き合い、どうすれば元の家庭に回復できるのか。そうした視点も諦めずに持ち続けたいものです。

(W)

育児世代の親に包括的支援が急務

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