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防止策の徹底とともに「良き親・家庭人」つくる取り組みも

東京都の虐待防止条例案で全国初「体罰禁止」明記へ


東京都が制定に向けて準備している児童虐待防止条例に、保護者による体罰禁止が明記されることになりました。これまで、学校での体罰については学校教育法に禁止規定があったものの、家庭内での体罰を禁ずる法律はありませんでした。保護者に懲戒権を認める民法との兼ね合いがあったからです。実際に、他県の虐待防止関連の条例でも保護者の体罰禁止は盛り込んでおらず、都道府県レベルで体罰禁止を明文化するのは東京都条例が初めてとなります。

当然のことながら、こうした取り組みの背景には児童虐待に対する危機意識の高まりがあります。やはり大きかったのは、今年3月に亡くなった、目黒区の船戸結愛ちゃん(当時5歳)の事件です。結愛ちゃんは義父による継続的な体罰などの深刻な虐待を受けており、発見されたときにはやせ細り、免疫にかかわる臓器(胸腺)は同世代の1/5ほどの重さに委縮していました。なかでも、覚えたてのひらがなで必死に両親に許しを請う結愛ちゃんのノートは大きく世論を動かし、行政など関連機関の危機意識を高めました。

国のレベルでも、7月には安倍首相が強くリーダーシップをとる形で児童虐待防止のための緊急対策がまとめられています。そこでは、児童相談所と警察の連携強化をはじめ、虐待通報後48時間以内に子供の安全確認ができない場合の「立ち入り検査」、リスクが高いケースでの「躊躇なき一時保護」、児童福祉司の大幅な増員など、虐待問題に行政が積極的に関与する方針が示されました。

もともと日本は明治民法以来、諸外国と比較して、家族の自治権を最大限に尊重し、行政や司法の介入も最小限にとどめる傾向がありました。しかし、現代では家族や共同体のつながりが薄れ、問題解決能力も衰える中で、児童虐待の激増や「子供の貧困」、夫婦間のDV、孤立する高齢者など、家族をめぐる問題が顕在化しており、公的な介入の必要性を指摘する声が高まっています。

その意味で、東京都条例での体罰禁止規定の明文化や、児童虐待が疑われるケースでの行政、司法による積極的な介入には一定の意義があると言えるでしょう。少子化で子供の数が減っているにもかかわらず、虐待相談が年間13万件にものぼる状況を放置することはできないからです。

ただし、公的介入の強化だけでは限界があることも事実です。児童福祉司も2022年度までに現状の約3000人から2000人増員するとしていますが、それでも年間13万件の虐待相談に対応しようとすれば、一人当たり年間20件以上の事案に対応しなければなりません。一件ごとに、これまでに以上にきめ細やかな対応が求められるうえ、地域の巡回等、ほかの業務もあることを考え合わせれば児童相談所だけに責任を押し付けることには無理があるでしょう。

一方、これだけ増え続ける児童虐待に対して、相談件数自体を減らす予防的な施策も必要です。実際に深刻な虐待死の事例などを見ると、親が経済的、社会的に追い詰められた末の虐待ばかりではなく、そもそも親としての資質を疑うような無責任で残酷なケースも少なくないからです。

結婚し、親になるとはどういうことなのか。良き夫婦、良き親、良き家庭人になるための教育の必要性を痛感します。公教育に、結婚、家庭教育を導入することはもちろん、地域で子供たちや若者に「良き家庭人」のロールモデルを示すような取り組みも必要でしょう。価値観の押し付けではなく、「幸せな家庭をつくりたい」「愛情あふれるお父さん、お母さんになりたい」と自然に感じさせ、人間的成長に向けた努力を促せるような教育をどうしたら実現できるのか。真剣に知恵を出し合い、具体的に実践すべき時期を迎えているように思います。

(O)

防止策の徹底とともに「良き親・家庭人」つくる取り組みも

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