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置き去りにされている「結婚と家庭の価値」についての議論

「未婚のひとり親支援」拡充の是非について考える


12月14日、自民、公明両党は2019年の税制改正大綱を決定しましたが、最後まで紛糾したのは「未婚ひとり親」に対する「寡婦控除」適用をめぐる議論でした。現行の寡婦控除では、死別や離婚が原因のひとり親に対する所得税、住民税が軽減されますが、未婚のひとり親は対象外となっています。

これに対して公明党は「ひとり親で生活が苦しいのは同じなのに、婚姻歴のあるなしで差別されるのはおかしい」として、寡婦控除の未婚ひとり親への拡大を主張。自民党の一部議員は「未婚での出産を助長しかねない」「婚姻を尊重する伝統的家族観を守るべきだ」と激しく反論し、議論は平行線をたどりました。

最終的には、あくまでも「子供の貧困対策」との名目で、住民税のみを軽減することで妥協が成立しました。ただし、公明党は来年以降も寡婦控除の完全適用を要求する方針で、今後も議論は続きそうです。

ひとり親家庭の子供の貧困率が50%以上に達するなか、一見すれば、公明党の主張に理があるように思えます。しかし、そもそも、支援を必要とする「ひとり親家庭」を増やさないための取り組みがない中で、なし崩しに支援の拡充だけを行うことは危険です。問題の根本解決のためには、自民党の一部議員が主張したように、婚姻制度の崩壊を食い止めなければなりません。

ネット上の反応も複雑でした。子供たちの養育環境を整えるために支援が必要なことに理解を示しつつも、制度の悪用への懸念を示したり、先の見通しもないまま未婚で子供を産んだ親の自己責任はないのか、と突き放すような意見もありました。

そのなかに「子供の本当の父親に養ってもらえばいい。国を頼りにすべきでない」とのコメントがありましたが、問題の本質をついた意見です。性的虐待や強制性交等の被害者を除き、子供が生まれるということは、男女が同意のうえで性行為に臨んでいるわけです。したがって、その行為の結果として生まれた子供の養育に、子供の本当の父親、母親双方が責任を持つのは当たり前のことです。

深刻なDV等による避けられない離婚や死別が原因であれば、ひとり親支援にも正当性がありますが、そうでない安易な離婚や未婚の場合、支援に疑問を持つ人が現れても不思議ではありません。

実際に、未婚のひとり親が生まれる背後には、多くの場合、女性と性関係を結びながら、その行為の結果を引き受けない無責任な男性の存在があります。離婚の場合でも、日本では養育費をきちんと支払う元夫は2割ほどしかいません。すべての子供の福祉を真剣に考えるなら、公的支援以前に、そうした無責任な親(多くが男親)を生み出さない努力が必要なのです。

家族の多様化を根拠にして福祉の充実を主張する人は、よく北欧の事例を持ち出します。しかし、婚外子が過半数に達するスウェーデンでも、子に対する親の養育責任に対しては厳格です。生まれた子供に対しては、たとえ未婚であっても遺伝上の父親を特定し、養育費を支払う義務が課されます。もしもその義務を履行しない場合は、強制的に取り立てる制度もあるほどです。

いずれにせよ、性行為は、その結果としての生命に対する重い責任が伴うことを社会全体で認識すべきでしょう。本来、神聖な「性」を安易に扱い、一時的な恋愛感情にともなうコミュニケーションや、快楽の道具に貶めてしまったことが、ひとり親家庭急増の根本的な原因の一つです。

未婚ひとり親支援をめぐって生まれた本音の議論が、性倫理教育、結婚・家庭価値の教育の推進に結びついていくことを切に願うばかりです。性と生命に対する倫理的責任を深く自覚する男女を育てることこそが、すべての子供に幸福をもたらす最善の方法だからです。

(O)

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