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もっと評価されるべきTPP、日欧EPA発効

自由で公正な競争が自国の繁栄と安保環境の基礎に


日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が1日に発効しました。日欧EPAは国内総生産(GDP)合計で世界の約28%、域内人口が6億人を超えるもので、昨年末に発効した環太平洋連携協定(TPP)を上回る規模の世界最大級の自由貿易圏です。

日本はTPPと合わせ、GDP合計で世界の約35%(日本の重複分を除く)、人口で10億人超の経済圏に加わることになり、国内GDPが約13兆円に押し上げられるとの試算も出ています。

今回の日欧EPAでは、相互に撤廃する関税の品目は9割超。チーズやワインなど欧州産食品の値下がりが見込まれ、国内酪農家が打撃を受ける恐れがある一方、消費者は恩恵を受けます。また、基幹産業の自動車分野で、日本で生産する自動車を輸出する際の関税が8年目に撤廃されることを受け、経済界は輸出増に期待しています。

このように、今回のEPA、TPPへの参加は、日本の成長戦略にとって大きな意義を持つものです。

本来は、知的財産権の侵害や国有企業への不当な補助金支出といった不公正な貿易慣行を続ける中国を念頭に、自由で公正な貿易ルールをめざして協議入りしたのがTPPやEPAです。しかしその後、その旗振り役となるべき米国がTPPから脱退し、日欧にも保護主義的な政策を打ち出してきました。

米中の追加関税の応酬など、さらなる保護主義的な動きが強まるなか、世界に自由貿易圏を拡大させる上での役割の大きさを自覚した日本が、さまざまな障害を乗り越え、協定発効にまで持ち込んだことは、国際的にもっと評価されてしかるべきだと思います。

安倍首相が「単に2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していく」と述べて、いわゆる「地球儀を俯瞰する外交」(地球儀外交)をスタートさせたのは、トランプ政権誕生前の2013年でした。今回のTPP、EPA発効はまさに「地球儀経済外交」の実績と言えると思います。

野上浩太郎官房副長官も、EPA発効直前の31日の記者会見で「日本とEUが自由貿易を力強く前進させていくとの揺るぎない政治意思を全世界に対して示す戦略的意義」を強調しました。

一方で、この件についての米欧メディアの報道はまばらなようです。「経済規模は大きくても、世界に占める貿易シェアはそれほどでもない。経済的なインパクトはあまり大きくない」「反自由貿易の流れをひっくり返すほどの影響力はを持ち得ない」などといった冷ややかな見方もあります。

それでもなお、自由と民主主義の普遍的な価値を守るための国家間の連携が弱まり、一方で中国の覇権主義的な経済外交政策が幅を利かせるなか、自由貿易による相互繁栄をめざす姿勢を打ち出すことをあきらめていけません。自由な経済連携はモノだけでない優秀な人材、すなわちヒトの交流を活発にします。それこそが自国の繁栄や安全保障の安定した環境の基礎になるのです。

(W)

もっと評価されるべきTPP、日欧EPA発効

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