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政経癒着を生む韓国財閥の「循環出資」構造

サムスントップに懲役5年(後編)


今回は前回のコラムの続きで、韓国のソウル中央地裁は8月25日、前大統領の朴槿恵(パク・クネ)被告への贈賄罪などに問われたサムスングループ経営トップのサムスン電子副会長、李在鎔(イ・ジェヨン)被告に懲役5年(求刑12年)の判決を言い渡した内容に関するものです。

前回は、創業者一家がわずかな持ち分でグループ全体を支配する「循環出資」の問題点について指摘しました。創業者が2世・3世にグループを継承するために、グループ内で「内部取引」が盛んに行われていると説明しました。例えば、物流や情報技術(IT)サービスを提供する会社を設立して、2世・3世が筆頭株主となります。売り上げが上がった後に上場することで、2世・3世は莫大な資金を手にします。そして、その資金でグループ内の主力企業の株を購入し、グループに対する支配権を強めるという内容です。

サムスンはサムスン物産→サムスン生命→サムスン電子などど典型的な循環出資構造になっています。循環出資はガバナンス(企業統治)が不透明になりがちなのが課題です。最も複雑なのが、「お家騒動」で有名なロッテです。これは韓国企業の株価がマーケットで過小評価される大きな原因となっています。サムスンは株主価値向上という観点からも循環出資構造を解消して、持ち株会社体制に移行する必要がありました。

しかし、ここでまた別の問題があったのです。

今の韓国の法律では、持ち株会社は金融会社を所有できないことになっています。ということは、サムスンがサムスン物産を持ち株会社とする持ち株会社に移行するには、サムスン物産がサムスン生命の株を処分するか、サムスン生命がサムスン電子の株を売却するしかありません。しかしそうなると、サムスン電子の株価が下落するという問題があります。つまりサムスンが今の状態のまま持ち株会社体制に移行するには、法律を変えるしかありません。これによって、李在鎔被告が朴被告に賄賂を渡したという見方が成立するわけです。

もちろん物的な証拠はありません。「疑わしきものは罰せず」という原則からすれば、韓国司法の判決には賛否両論があります。しかし、過去、韓国の財閥ではオーナーが子どもにグループを継承させる作業でさまざまな不正があったことは事実であり、「ろうそく集会」を背景に「積弊の清算」を叫んだ文在寅(ムン・ジェイン)政権の背景を考えれば、当然の帰結だと言えるでしょう。(H=ソウル在住)

政経癒着を生む韓国財閥の「循環出資」構造

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