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リアル・アメリカ〜知られざる政治経済・社会・メディアのいま〜 Vol.43

なぜ民主党予備選挙候補者らは経済政策を語ろうとしないのか

〜背景に個人による少額ネット献金の爆発的増加〜

text by 渡瀬裕哉


2020年大統領選挙に向けた民主党の予備選挙序盤戦が佳境を迎えつつある。6月、7月のテレビ討論会を経て20数名が手を挙げていた候補者らが、9月のテレビ討論会では10名にまで絞り込まれる状態となった。トランプ大統領に対抗するための民主党候補者を選定するための民主党員による品定めは着々と進んでいると言えよう。

イデオロギー問題中心の民主候補者

ただし、筆者は民主党予備選挙候補者の発言などを見ていて、一つの大きな違和感を抱いている。それは各候補者から「経済政策」と呼べる内容がほとんど語られていないことだ。共和党側のトランプ大統領が「経済」に関して発言するのと対照的に、民主党候補者は驚くほど米経済について語ろうとしない。彼らが語る言葉は、人種、LGBT、銃規制、社会保障、環境、移民などのイデオロギー問題が中心であり、経済・産業の現状や将来の課題について積極的に発言しようとする人はいない。有力候補者たちは格差是正を中心とした主張を行いながら、平然と社会主義的な政策を肯定する意見を述べている現状だ。

もちろんトランプ政権下で、減税・規制廃止で底堅い力強さを見せている米国経済について民主党候補者が触れたくないことは理解できる。しかし、経済や雇用は生活に直結する話題であり、それについてほとんど触れないことは明らかにやりすぎであり異常だと思う。この状況を作り出している原因は一体何であろうか。

怒りを掻き立てる過激な主張を助長

このような異常な状況は実は政治資金面における構造変化によってもたらされている。近年の民主党の政治資金は個人による少額のネット献金の爆発的な増加によって支えられている。大統領選挙だけでなく連邦議会議員選挙、そして州政治レベルにまで、政治資金調達の変化の波が押し寄せている。大口献金者を大量に抱えるバイデン元副大統領が他の予備選挙候補者に対して資金的に劣後する事態に追い込まれていることも象徴的な出来事だと言えるだろう。

問題は、これらの個人献金の寄付者のイデオロギーが著しく偏っている傾向があることだ。個人が政治献金を行うためには動機付けが必要であり、その動機付けには中道的で冷静な文言ではなく、偏った志向で怒りを掻き立てる情熱的な言葉が有効である。筆者も米国の知り合いと名刺交換した後、個人献金集めのためのメールが毎日のように届くようになったが、その内容は非常に過激な内容で人々を動員する演出がなされている。

したがって、民主党候補者らはテレビ討論会などで経済問題などの資金集めに役立たない内容には触れず、テレビの前のイデオロギー的傾向が明確となっている視聴者向けのメッセージに終始することになる。イデオロギー的な内容を過激に主張することで直接的に小口献金額に反映される状況では当然の態度だろう。さらに、その小口献金が集まったことが報道されて「バンドワゴン効果」を生み出すとなれば尚更だ。

日本も「明日は我が身」の状況

筆者はこのような状況は民主主義、テクノロジー、マーケティング技術が発展した当然の帰結だと思うが、それでもこのままの傾向が更に拍車をかけた場合、米国政治がどのような状況になってしまうのか些か心配になっている。そして、現在の日本でもまともな経済政策を掲げる野党がほとんど存在していない状況に鑑み、問題は米国だけの話ではなくなってきていると感じざるを得ない。

(わたせ・ゆうや=国際情勢アナリスト)

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