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少子化対策の切り札となるか 幼児教育無償化まで1カ月

幼児教育の質的向上と家庭の育児観見直しが今後の課題


10月1日の消費税の増税まで1カ月を切りました。これに合わせ、幼児教育・保育の無償化がスタートします。

幼稚園や認可保育所、認定こども園に通う3〜5歳児は親の所得に関係なく全員、0〜2歳児は所得の低い住民税非課税世帯のみ無料になるほか、認可外保育サービスや幼稚園も、条件付きだが補助の対象(無償の上限額あり)となります。幼保無償化に伴う必要負担は国と自治体とで7000億円超とされ、消費増税に伴う増収分がそのままあてられる計算です。

幼保無償化は安倍政権の掲げる「全世代型社会保障」の看板政策であり、「国難」と呼ぶ少子化への対策と、女性の就労支援が目的とされています。保護者の負担軽減という点からは歓迎すべきことです。しかし、無償化すればそれで解決するという問題ではありません。

昨今、待機児童問題や保育所内の虐待など、保育環境をめぐるさまざまなニュースが取り沙汰されるなか、無償化には心配の声も多く聞かれます。無償化で需要が伸びることで、待機児童の増加や保育の質の低下、そして教育格差のさらなる拡大が懸念されているのです。

保育の質が改善しない根本的な原因の一つは、保育現場の業務の増加とともに保育士や幼稚園教諭が専門職として十分に認識されていないことです。質の高い幼児教育のためには、保育環境の充実とともに、教員や保育士の資質・能力向上、待遇改善が不可欠であることはいうまでもありません。

また、少子化対策としての無償化にはより大きな問題点があります。それは、少子化の原因を「母親の負担が大きい」「保育園に入れない」「経済的な負担が大きい」などと矮小化してしまうことで、「育児はコストがかかる」「子供はリスクである」といった思考を若者世代に強調してしまうことです。

総合人材サービスのパーソルキャリアがこのほど行った調査(全国の20〜40代の働きながら子育てをする男女600人が対象)では、「家庭の時間を十分に取れている」と回答した人は約1割(14.0%)。また、「十分に取れていないと感じる家庭の時間」の項目では、「自分のための時間」と同率で「子供との触れあいの時間」(92.8%)がトップでした。

無償化で、子育て家庭には一定の時期に金銭的な余裕が生まれることになるかもしれませんが、時間的な余裕も生まれるのでしょうか。

本来めざすべきは、多少は経済的コストがかかっても、「子育てしたい」「子供がいて楽しい」と思える社会のはずです。本気で少子化の克服をめざすなら、男女の役割意識や働き方などを含め、結婚や子を持つことについて、十分な情報や啓発のための資料を提供すべきです。また、学校教育の場でも、個人の自由な選択を前提としつつ、結婚して子供を産み、社会を受け継いでいくことの重要性について教える場が必要ではないでしょうか。

10月から実施される無償化が、幼児教育・保育の質的な向上とともに、子育てについて社会全体で考える機会となることを願います。

(S)

少子化対策の切り札となるか 幼児教育無償化まで1カ月

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