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トランプ氏弾劾調査開始 今後の行方が大統領選に大きく影響

〜民主「公開証言」で攻勢かけるも「もろ刃の剣」?〜


米下院本会議は10月31日の本会議で、トランプ大統領のウクライナ疑惑の弾劾調査開始を正式に決定する決議案を野党民主党議員らの賛成多数で可決しました。野党の民主党はトランプ氏の不正疑惑を把握する政府関係者らの公開証言に着手し、不正疑惑の深刻さを米国民に訴えていく方針で、トランプ氏の弾劾訴追に向けて手続きを進めたことになり、民主党と政権との対立が激しくなります。

下院での決議は賛成232、反対196で可決。ただ、共和党員は1人も首を縦に振らなかった一方、民主党からは2人の造反者が出ました。共和党は現時点でトランプ氏擁護で結束しており、一連の弾劾プロセスにおけるトランプ大統領の最初の勝利だとする論評もあります。

大統領の罷免には、下院で弾劾訴追が可決されたうえで、上院での弾劾裁判で3分の2の議員が有罪に票を入れる必要があります。共和党が多数派を占める上院で3分の2以上の賛成を得るのはかなりハードルが高いとみられます。

今回の決議ではトランプ氏の不正疑惑について公開証言を行う権限を民主党のシフ議員が率いる下院情報特別委員長に付与すると明記し、これまでの非公開証言も「一部を除き」公開するとしました。日本のメディアの多くはこれを、「これまでトランプ政権関係者らを非公開で聴取してきた民主党が、今後は公開証言を交えて世論の関心を高めたい考え」と報じています。

しかし実際のところ、決議は、9月末に民主党のペロシ下院議長が議決を取らずに決定した弾劾調査について、これを違法だとする共和党の主張をかわすために行ったものです。調査を任されたシフ委員長は調査を非公開にして独断で証人喚問を行い、トランプ氏に不利な情報だけを公開し、共和党議員の参加を限定するなど、民主国家ではありえない秘密調査を糾弾されていました。

そもそも「ウクライナ疑惑」とは、オバマ政権下でバイデン前副大統領が政治力を使って息子のハンター・バイデン氏に巨額の利益誘導したとされる問題に端を発しています。バイデン氏の「利益誘導」とトランプ氏の「職権乱用」。両者の疑惑へのメディアの扱いは後者だけがクローズアップされていて、「論点ずらし」の批判は免れず、バランスを欠いていると言わざるを得ません。

トランプ氏が大統領に就任して以来、米国の主要リベラルメディアはロシア疑惑を追及し続けました。しかし、特別検察官を任命して22カ月の時間と2500万ドル(約28億円)をかけた捜査は「トランプ陣営およびそれに関わる人物がロシア政府と共謀、協調した事実は認められなかった」と結論付け、終了しました。

今回はウクライナ疑惑では弾劾調査の開始まではたどり着きました。今後、議会公聴会での関係者の証言をへて、米国民がどのような世論を形成していくかが注目です。しかし、そこで何も出てこなければ、トランプ氏は「民主党が国政をほったらかしてトランプ罷免に熱中している」と主張し、来年に迫った大統領選挙も一気にトランプ氏有利に傾くかもしれません。これはある意味、二大政党の二極化が進んでいる現在の米国政治特有の事情と言えるでしょう。

(t)

トランプ氏弾劾調査開始 今後の行方が大統領選に大きく影響

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