ポストコロナ

ポストコロナ 世界はどう変化するのか 〜UPF主催「ILC特別懇談会」の議論から〜 第2回

コロナ禍が明らかにしたグローバル化の問題点

text by 魚谷俊輔

「ポストコロナの世界—平和秩序と日本の役割」をテーマとするILC特別懇談会(主催:UPF-Japanほか)が2020年6月30日、東京都内で開催され、国際政治と家庭問題の専門家、ジャーナリスト、国会議員をはじめとする25人の有識者たちが活発なディスカッションを行った。このシリーズは、そこで有識者たちが出しあった様々なアイデアをテーマごとに整理し、換骨奪胎して筆者なりにまとめたものである。この論考が、平和大使1人ひとりがポストコロナの世界に対する展望を抱くうえで助けになれば幸甚である。

無症状でも感染 グローバル社会で急拡大

ウイルスというのは生物と無生物の中間であり、脳はおろか細胞さえ持たない存在であるから、思考したり、知恵を駆使したりすることはできない。にもかかわらず、連日の報道では「コロナウイルスと人類の知恵比べ」というような比喩が用いられている。ウイルスは自己の増殖を目的としており、少しでも増殖に有利なように変異するとすれば、確かに新型コロナウイルスは非常に賢いウイルスであると言えるだろう。

それは21世紀のグローバルな人の交流に適応した変異であったと言える。人の移動と自由な経済活動に乗って拡大し、大半が軽症か無症状という状態の中で、無症状の人々がどんどん感染を拡大させている。致死率はインフルエンザの10倍であり、若者の間に広がり、高齢者が死ぬという状況が各国を苦しめている。

あらためて気づかされた海外依存の大きさ

冷戦が終わって以降、人類はグローバル化の道を突き進んできた。人、モノ、金が自由に動くようになり、国境がなくなって国際協力が進んでいった。グローバル化は我々自身も気付かないうちに、生活の隅々にまで影響を与えるようになった。消費財において、価格最優先・経済最優先に走るあまり、中国にモノづくりを頼りすぎるようになっていた。マスクが8割も中国に依存していたことに無くなってみて初めて気付き、いざというときに必要なものは一定量を国産で確保しなければならないことを思い知らされた。

いまや多くの産業分野で、外国人の人材を抜きにして日本の経済は成り立たない。農業にしても、水産業にしても、多くが外国人に頼っているというのが日本の第一次産業の現状である。外国人の技能実習生のうち3万2千人は農業に携わっている。そのうち2千数百名がコロナによって来られなくなってしまい、日本全国の農家が困っている。日本では、そうしたことが初めてコロナで分かった。

たとえ移民や労働者として外国人を日本国内に入れなくても、実は何百万から何千万の人の外国人労働者の努力によって、我々の豊かな生活が成り立っている。グローバル化で分業が進み、外国の労働者が作ったものを安価で輸入してきた。これを「バーチャル・マイグレーション」という。

 

グローバルな交流の寸断で世界経済に大打撃

日本に限らず、コロナで国境が閉じられて一番困ったのは先進国である。先進国は少子高齢化で労働力不足である。外から人を入れないと生きていけない。ヨーロッパやアメリカでも季節労働者によって農業が成り立っている。いまヨーロッパでは、100万人の農業労働者が不足している。イギリスでは外から農業移民が来なくなって、誰も刈り取りができない。刈り取りは簡単なものではなく、時期や熟れ具合や市場に出回るための準備など、高い知識が必要である。移民の力の重要性が、逆に国境を閉じられて分かったのである。21世紀のグローバルな人の交流によって、コロナウイルスは瞬く間に世界に拡大した。一方でロックダウンや国境閉鎖によって、グローバルな人の流れを寸断し、世界経済に大打撃を与えたのである。

(つづく)

コロナ禍が明らかにしたグローバル化の問題点

新着記事

  1. 世界思想Vol.61

PAGE TOP