ポストコロナ

ポストコロナ 世界はどう変化するのか 〜UPF主催「ILC特別懇談会」の議論から〜 第1回

世界を“レントゲン”にかけたコロナ禍

text by 魚谷俊輔

「ポストコロナの世界—平和秩序と日本の役割」をテーマとするILC特別懇談会(主催:UPF-Japanほか)が2020年6月30日、東京都内で開催され、国際政治と家庭問題の専門家、ジャーナリスト、国会議員をはじめとする25人の有識者たちが活発なディスカッションを行った。今回から始まるこのシリーズは、そこで有識者たちが出しあった様々なアイデアをテーマごとに整理し、換骨奪胎して筆者なりにまとめたものである。この論考が、平和大使1人ひとりがポストコロナの世界に対する展望を抱くうえで助けになれば幸甚である。

コロナがあぶり出した現代文明の問題点

第1回の今回は、議論の中で示されたテーマを列挙することで全体を概観したい。

イタリアの作家パオロ・ジョルダーノは、コロナ禍をレントゲンに例えた。著書『コロナの時代の僕ら』(早川書房)には、「僕たちは今、地球規模の病気にかかっている最中であり、パンデミックが僕らの文明をレントゲンにかけているところだ」と書かれている。有識者たちの議論では、コロナウイルスは甚大な被害をもたらしたが、それを通して現代文明が持つ様々な問題点を明らかにしているのだという視点が多く語られた。すなわち、コロナによって問題が起こったというよりは、もともとあった問題がコロナによって顕在化され、加速されたということである。

ナショナリズムとグローバリズムの相克

こうした問題の1つが、自国中心主義、ナショナリズム、ポピュリズムなど、特に欧米を中心に進んでいる傾向である。こうした傾向を持つ欧米の先進国において最も深刻な感染爆発が起きた。これに付随する問題が格差の拡大であり、米国では黒人やヒスパニック、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人々に感染者と死者が集中した。

これと一見矛盾するが、コインの裏表のようになっているのがグローバリズムの問題である。21世紀のグローバルな人の交流によって、コロナウイルスは瞬く間に世界に拡大した。一方でロックダウンや国境閉鎖によって、グローバルな経済の流れを寸断し、世界経済に大打撃を与えた。先進国の経済が外国人労働者に依存している実態や、サプライチェーンにおける価格最優先で、中国にモノづくりを頼りすぎていた現状も明らかになった。

コロナ禍によって米中対立がさらに激しくなったというのは、誰もが認めるところだ。ポストコロナの世界においては、アメリカの影響力が低下して中国の影響力が高まるのか、その逆になるのか、それとも米中が共に影響力を低下させる「Gゼロ」の世界になるのかに関心が集まった。

一方で、コロナによる「ステイホーム」で家庭にストレスがかかり、日本の家庭が潜在的に抱えていたさまざまな問題が噴出したという議論もなされた。コロナが我々のメンタルに及ぼすダメージの大きさは非常に大きく、実はその全容はまだ分かっていない。

パクス・アメリカーナの終焉と「文明の転換」の可能性

人類の歴史は疫病との闘いの歴史であったが、過去の歴史を振り返ると、パンデミックと大規模な戦争が同時に起こることによって、世界のシステムを大きく変えるような「文明の転換」が起きたことが何度かあった。今回のコロナ禍がそうした大転換をもたらすのかどうかはまだ分からないが、少なくとも「パクス・アメリカーナ」の時代が終焉しつつあるのは誰もが感じているところである。

ポストコロナの時代をリードするのが米中のどちらなのか、あるいはそのどちらでもないのかはまだ分からない。歴史を大きく変えるような「文明の転換」が起きるのかもしれない。その中で日本という国が、国際情勢を冷静に見つめながら、21世紀をリードする国になることを、日本人としては願わざるを得ない。

(つづく)

世界を“レントゲン”にかけたコロナ禍

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