ポストコロナ

ポストコロナ 世界はどう変化するのか 〜UPF主催「ILC特別懇談会」の議論から〜 第3回

あぶり出された欧米先進国の矛盾

text by 魚谷俊輔

「ポストコロナの世界—平和秩序と日本の役割」をテーマとするILC特別懇談会(主催:UPF-Japanほか)が2020年6月30日、東京都内で開催され、国際政治と家庭問題の専門家、ジャーナリスト、国会議員をはじめとする25人の有識者たちが活発なディスカッションを行った。このシリーズは、そこで有識者たちが出しあった様々なアイデアをテーマごとに整理し、換骨奪胎して筆者なりにまとめたものである。この論考が、平和大使1人ひとりがポストコロナの世界に対する展望を抱くうえで助けになれば幸甚である。

欧米先進国を中心に感染爆発

新型コロナウィルスの感染者数と死者数の移動軌跡を分析すると、このウイルスは中国で発生して初期はアジアに広まったにもかかわらず、アジアにおける感染は比較的小規模で短期に収束し、欧米の先進国において世界最大級の感染爆発が起きた点が特徴的である。それをBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国の新興5カ国)、カリブ海、ラテンアメリカが追いかける形になっている。非常に高い医療制度と社会保障を持っている世界トップクラスの先進国で最初に感染爆発が起きたのはなぜかということが問題となる。

「アメリカ・ファースト」を叫ぶトランプのアメリカ、ブレグジットのイギリス、そしてポピュリズムの欧州で非常に多くの感染者と死者が出た。特に4月から5月にかけては、アメリカと欧州で感染者のほぼ90%を占めていた。グローバリゼーションと新自由主義と格差社会の弊害のような形で、先進国において感染が急速に広がったと言えるのである。特に自国ファーストでコロナを軽視した国々では被害が大きくなっている。

感染拡大早めた欧米先進国特有の病理

アメリカでは6月末で死者が12万人に達した。これはベトナム戦争の死者に朝鮮戦争2回分の死者を足したくらいの数である。この結果だけを見ても、アメリカのコロナ対策は大失敗であったと言える。コロナ禍の真っ最中に、アメリカでジョージ・フロイド氏の死をきっかけに人種差別問題が勃発したことは、格差社会の問題とコロナの拡大がリンクしていることを示す象徴的な出来事となった。

なぜ先進国で感染が早いのかについては、いくつかの理由が考えられる。㈰初期の段階で欧米諸国はこれは中国の問題だと思い込んで軽視していたため、対応が遅れて医療崩壊を招いた㈪大都市に格差が存在し、黒人やヒスパニックなどのマイノリティに感染が拡大した㈫夜の街や繁華街で集団感性が起きた㈬高齢化が進んでいるために重篤化する人が多かった。特にスウェーデンでは老人より若者を守るという政策が取られ、多数の老人が亡くなった㈭経済回復を急いだことにより、ロックダウンを早期に解除して感染拡大が再発した——。これらはいずれも先進国特有の病理であると言える。

新型コロナウィルスは、ポピュリズム、反ワクチン運動、反知性主義といった欧米の環境の中で感染が拡大していった。21世紀に入って欧米ではワクチンを拒否する動きが出てきた。それによって免疫力が下がり、感染爆発が起きたという説がある。

コロナを防いだアジアの知恵—連帯と共同

一方で韓国、台湾、香港など、アジアでは感染者が少ない。その理由は①SARSでの感染の経験㈪早期からの徹底した隔離②消毒、風呂、マスク、手洗いの習慣③SNSなどでの個人行動管理㈭個人も社会秩序に従うタテ型儒教社会——などが考えられる。全般的に見て、アジア諸国は今回のコロナを米欧に比べて非常に上手に、そして知的に克服してきた。それがヨーロッパで高く評価されている。コロナを防いだアジアの知恵とは、連帯と共同であり、高齢者や医療関係者や弱者を思いやることであり、地域協力であった。エッセンシャルワーカーと弱者を守ることによって感染拡大を防いだのである。これらの人々が自分と関係ないと思う限りは、爆発的感染を止めることはできない。欧米に欠けていたのはまさにこの部分であった。

日本国内において、東京都で感染が急増しているのは、地方よりも東京の方が先進国的な特徴を多く備えているからであると解釈できる。「三密」が感染を拡大すると言われたが、その最たるものが東京である。いまでも東京では感染が収まっていないが、これは一極集中の故である。それに対して地方ではほとんど収まっている。コロナ騒動で一つだけ良かったことは、テレワークが進んだことだった。しかしテレワークで常勤雇用の人は守られるが、非常勤、非正規雇用の人は失業してしまった。日本ではコロナによって経済面の格差は拡大したと言える。コロナはまさに先進国の矛盾をあぶりだしたのである。

(つづく)

あぶり出された欧米先進国の矛盾

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