ポストコロナ

ポストコロナ 世界はどう変化するのか 〜UPF主催「ILC特別懇談会」の議論から〜 第4回

コロナ対応で身動き取れない米国

激化する米中対立と日本の安全保障①

text by 魚谷俊輔

「ポストコロナの世界—平和秩序と日本の役割」をテーマとするILC特別懇談会(主催:UPF-Japanほか)が2020年6月30日、東京都内で開催され、国際政治と家庭問題の専門家、ジャーナリスト、国会議員をはじめとする25人の有識者たちが活発なディスカッションを行った。このシリーズは、そこで有識者たちが出しあった様々なアイデアをテーマごとに整理し、換骨奪胎して筆者なりにまとめたものである。この論考が、平和大使1人ひとりがポストコロナの世界に対する展望を抱くうえで助けになれば幸甚である。

コロナ後の世界秩序に3つのシナリオ

コロナ禍によって米中対立がさらに激しくなったというのは、誰もが認めるところだ。それによって世界秩序がどう変わるかについて、いま欧米のシンクタンクでは3つのシナリオが議論されている。シナリオAは、アメリカのコロナ対応がまずかったので、アメリカの指導力がさらに低下し、経済的に早く回復するであろう中国の影響力が強まっていくというものである。シナリオBは、発生源である中国はどんなに経済回復をしても世界的な批判を免れることはできず、これから国内経済への影響や統治体制への影響も大きいので、これを機に中国は勝者ではなく敗者になるというものである。シナリオCは、アメリカも中国もお粗末であり、どちらも影響力を失っていく「Gゼロ」の状態になるというものだ。今回はシナリオAについて解説する。

アメリカは「国防権限法」で中国の経済覇権に対抗

アメリカの民主党系の人は、シナリオAの見方をすることが多い。それはトランプに対する批判も交えて、「こんなことをやっていると、中国を利してしまうぞ」という議論の中で語られる。いまアメリカの内部は分裂していて、大変なことになっている。死者の数も感染者の数も圧倒的に中国よりも多い。失業率は20%に上り、回復するのはおそらく2023年から24年だと米連邦準備制度理事会(FRB)は予測している。

米中の経済力を比較すれば、名目国内総生産(GDP)においてはアメリカが1位で中国が2位だが、購買力平価GDP(※)においては既に中国がアメリカに追い付き、追い越している状態である。

中国はハイテク技術戦略をまとめた「中国製造2025」に次いで、中国の技術規格を国際標準化させる「中国標準2035」戦略を発表した。これは中国が世界のルールメーカーになろうという国家目標だ。これが脅威になっているわけだが、アメリカは「国防権限法」を強化することによって中国に対抗してきた。これは米国の国防予算の大枠を決めるために議会が毎年通す法律である。これによって外国企業の対米投資を厳格化した。さらに先端技術の輸出管理を厳格化した。これによって華為(ファーウェイ)とZTEを排除していった。昨年の宇宙軍の創設もこの国防権限法によってもたらされた。

経済をテコに国益を追求する中国

しかし、アメリカはいまコロナの問題で身動きが取れなくなっており、世界がパンデミックで揺れ動いている間に、その隙を狙って中国は香港の国家安全維持法を成立させた。

中国は軍事力だけではなく、その経済力にものを言わせて他国に対する影響力を行使している。最近は「エコノミック・ステイトクラフト」という言葉がよく使われるようになった。これは経済的手段をもって国益を追求していくという意味だが、なかなか的確な日本語訳がない。

分かりやすい例の一つが「経済制裁」である。従来の経済制裁は、国際的なルールから逸脱した国を正して、ルールのもとに戻すことが目的であった。北朝鮮やイランがその対象になっている。こうした経済制裁が古典的な「エコノミック・ステイトクラフト」だが、中国の覇権によってその意味がずいぶん変わってきた。

中国が自国の野心や覇権の獲得のために経済的手段を用いるようになったからである。分かりやすい例を挙げれば、モンゴルがダライラマを受け入れたときに、中国はモンゴルへの経済援助を停止した。さらに韓国がミサイル防衛システムTHAADを配備した後に、中国は韓国への直接投資を半分に減らすという手段を使った。そしてフィリピンと領有権でもめたときには、バナナの輸入手続きを遅らせてバナナを腐らせてしまうという手段を用いた。こうして中国が経済覇権を拡大していくというのがシナリオAである。

(つづく)

※購買力平価(ある一定の商品やサービスを購入できる金額を、異なる通貨間でそれぞれ等しい価値をもつと考えて決められる交換比率)をベースとしたGDP

コロナ対応で身動き取れない米国

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