ポストコロナ

ポストコロナ 世界はどう変化するのか 〜UPF主催「ILC特別懇談会」の議論から〜 第5回

中国共産党の正当性まで脅かすコロナの影響

激化する米中対立と日本の安全保障②

text by 魚谷俊輔

「ポストコロナの世界—平和秩序と日本の役割」をテーマとするILC特別懇談会(主催:UPF-Japanほか)が2020年6月30日、東京都内で開催され、国際政治と家庭問題の専門家、ジャーナリスト、国会議員をはじめとする25人の有識者たちが活発なディスカッションを行った。このシリーズは、そこで有識者たちが出しあった様々なアイデアをテーマごとに整理し、換骨奪胎して筆者なりにまとめたものである。この論考が、平和大使1人ひとりがポストコロナの世界に対する展望を抱くうえで助けになれば幸甚である。

コロナ禍の中国、失業率20%の試算も

アフターコロナの世界秩序がどうなるかに関する議論の中で、前回は中国の影響力が強まっていくというシナリオAについて解説した。それに対して逆に中国は敗者になるというのがシナリオBであり、米中共に影響力を失って「Gゼロ」の状態になるというのがシナリオCであった。

いま欧米のシンクタンクでは、シナリオCになるという議論が多いが、長期的に見ればシナリオBになるという識者もいる。シナリオBの典型的な識者は、中国系アメリカ人で中国の専門家であるミンシン・ペイ(クレアモント大学教授)である。彼は『フォーリンアフェアーズ』誌に「中国に迫り来る大混乱――コロナウィルスと不安定化する体制」という論文を書いたが、中国共産党はコロナによって大きなボディーブローを受けるだろうと言っている。

中国経済は来年以降回復するかもしれないが、しばらくはコロナの後遺症に悩まされることになる。中国の失業率は表向きは6%ということになっているが、職を失い農村に戻った出稼ぎ者も入れると、実際の失業率は20%を超えるという試算もある。世界銀行の予測によると、今年の中国の経済成長率は1%にとどまりそうだ。これは1970年代後半に改革開放が始まって以来の低いレベルである。

今年5月22日に全国人民代表大会で李克強首相が行った演説では、今年の成長目標を示せないという異例の事態になり、雇用に対する不安を隠そうともしなかった。これは2050年までに中国が世界の偉大な国になるという、党大会での習近平の目標達成が難しくなったことを意味する。

強硬な外交姿勢 背景に国内で高まる不安定要因

問題は中国がこうした内憂を深めたとき、対外行動にどのような影響が出てくるかである。コロナ発生後に目につくのは、強硬な姿勢である。中国は尖閣諸島沖に監視船を送り続け、5月8日には日本の領海で日本漁船を追いかけた。南シナ海の支配強化のために行政区を設け、4月には台湾海峡で空母が演習した。7月1日には反体制活動を禁じる「香港国家安全法」が施行された。

これまで世界は強大で自信にあふれた中国にどう対処するかに悩んできた。したがって中国が弱体化することは一見よさそうなのだが、国内に不安が高まると、相手国に対して強硬になったり、予測できない行動に走る可能性がある。これからは大きいけれども内部は脆弱になっていく中国に向き合うことになる。したがってシナリオBはより難しいシナリオでもあるのだ。

選挙によって指導者を取り替えられる民主主義国家の強み

いまはアメリカも中国もコロナで大きなダメージを受け、シナリオCのように相打ち的にダメージを受けている。それでもなぜ最終的にシナリオBになるかと言えば、「国家体制」の問題があるからである。アメリカは民主主義の国であるから、どんなに傷ついても、選挙によって指導者が変わるだけであり、それによって民主主義という「国家体制」は崩れない。しかし、中国では選挙で国の指導者が変わることはない。政治の自由がなくても中国人が共産党政府を支持してきた理由は、昨日より今日、今日より明日と、生活が豊かになってきたからだ。低成長になり、失業者が増えれば、共産党の正統性は脅かされてしまう。したがって、現在のこの状況は中国共産党にとってよりダメージが大きいのである。

(つづく)

中国共産党の正当性まで脅かすコロナの影響

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