ポストコロナ

ポストコロナ 世界はどう変化するのか 〜UPF主催「ILC特別懇談会」の議論から〜 第6回

日米同盟基軸に多国間安保協力の強化が急がれる日本

激化する米中対立と日本の安全保障③

text by 魚谷俊輔

「ポストコロナの世界—平和秩序と日本の役割」をテーマとするILC特別懇談会(主催:UPF-Japanほか)が2020年6月30日、東京都内で開催され、国際政治と家庭問題の専門家、ジャーナリスト、国会議員をはじめとする25人の有識者たちが活発なディスカッションを行った。このシリーズは、そこで有識者たちが出しあった様々なアイデアをテーマごとに整理し、換骨奪胎して筆者なりにまとめたものである。この論考が、平和大使1人ひとりがポストコロナの世界に対する展望を抱くうえで助けになれば幸甚である。

中国の「人格」を問題視し始めたアメリカ

コロナ禍によって米中対立がさらに激しくなったというのは誰もが認めるところだが、アメリカの対中強硬論のスイッチが入ってしまったことが大きい。コロナ以前は、ハイテクや貿易問題という中国の行動を問題としていたが、いまや共産党の体質が問題という議論に変わった。共産党の一党独裁体制には言論や報道の自由がないから、隠蔽があり、コロナの拡散を招いてしまったと言われている。人間で言えば、その人の行動ではなく、性格や人格を問題としていることになる。人間でも行動を問題にしているときにはそれを改めれば仲直りできるが、性格や人格が信用できないと言ってしまえば、問題は簡単には解けない。これがいまのアメリカが中国を見る目になってしまっている。

前回述べたように、コロナ後の中国には強硬な対外行動が目立ってきた。中国で内憂が深まったことにより、予測できない行動に走る可能性が高まった。これから日本は、大きいけれども内部は脆弱になっていく中国に向き合うことになる。

自主防衛容易でない日本の状況 マルチの同盟検討も

こうした状況の中で、日本は自国の安全保障について真剣に考えなければならないのである。もちろん日米同盟は基本であるが、それだけでは足りない。中国はGDPで日本の3倍、国防費で5〜6倍、人口は10倍である。日本の国防費を増やして自主防衛というのは一つの考え方だが、人口減少と税収減という状況の中で、国防費が5〜6倍の中国と対峙しなければならないわけだから、口で言うほど簡単ではない。国防費を増やしたうえで、日本有事や台湾有事のときに日本が果たすべき役割をかなり増やさなければならないだろう。

しかし、いざというときにアメリカの関与を維持することは、さほど簡単ではない。日米同盟プラス日本の多少の攻撃力をもって中国と対峙する仕組みを作ったとしても、もしアメリカが「国内問題が大変だからお前一人で頑張ってくれ」と言って引きこもってしまったらそれまでである。事実、冷戦中にソ連に対してベトナム戦争で傷ついていたアメリカでは、キッシンジャーがデタントという形で中国との緊張緩和に走った。したがって、米中関係が厳しいからと言って、アメリカが常に関与して、日本と一緒に中国に対抗するとは限らないのである。その場合はどうするのかを考えなければならない。

日米同盟がプランAだが、プランBも考えなければならない。自主防衛が難しいのであれば、アメリカ抜きのマルチの同盟をヨーロッパ、オーストラリア、インドなどと作るか考えなければならない。それが難しければ、中国が主導する秩序を受け入れるしかないが、それは最悪のシナリオである。「パクス・アメリカーナ」が終焉しつつあるいま、日本は真剣にプランBについて考えなければならない時を迎えている。

安倍政権は安全保障に関して本質的な変革をしてきた政権である。一つは2015年の安全保障法制による集団的自衛権の条件付き行使の容認、そして国家安全保障会議(日本版NSC)の創設、さらに防衛装備移転3原則によって国内の防衛産業を守ると同時に、日本の防衛技術を海外に売り込むこともできるようになった。

急がれる経済安全保障戦略の構築

このように本質的な変革を行ってきたが、「経済安全保障」の概念がこれまでの安倍政権の安全保障戦略には欠落していた。中国の脅威を考えるとき、日本もこれを取り入れなければならないということで動き出したのが今年の4月からである。国家安全保障局に経済安全保障政策の司令塔となる「経済班」を設置し、本格的に議論を始めた。ここで対日投資や輸出管理、海洋権益、さらには感染症に関する議論を開始した。

また自民党の中に、「新国際秩序総合戦略会議」が発足し、議論がなされている。岸田文雄政調会長が本部長で、甘利明税制調査会長が座長として会議をリードしている。自民党ではこの会議において、「経済安全保障」を日本でも取り入れようという議論がなされているのである。

(つづく)

日米同盟基軸に多国間安保協力の強化が急がれる日本

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