ポストコロナ

ポストコロナ 世界はどう変化するのか 〜UPF主催「ILC特別懇談会」の議論から〜 第9回

感染急拡大で「協力と連携」忘れた国際社会

text by 魚谷俊輔

「ポストコロナの世界—平和秩序と日本の役割」をテーマとするILC特別懇談会(主催:UPF-Japanほか)が2020年6月30日、東京都内で開催され、国際政治と家庭問題の専門家、ジャーナリスト、国会議員をはじめとする25人の有識者たちが活発なディスカッションを行った。このシリーズは、そこで有識者たちが出しあった様々なアイデアをテーマごとに整理し、換骨奪胎して筆者なりにまとめたものである。この論考が、平和大使1人ひとりがポストコロナの世界に対する展望を抱くうえで助けになれば幸甚である。

欧米中心に自国中心主義が台頭

新型コロナウイルスは21世紀のグローバルな人の交流によって、瞬く間に世界に拡大した。一方でロックダウンや国境閉鎖によってグローバルな人の流れを寸断し、世界の国々を孤立化させた。その結果、欧米を中心に自国中心主義とナショナリズムが台頭した。これほどのパンデミックの状況下では、自国内において感染を防止するだけでは意味をなさず、世界全体がウイルスとの闘いに勝たなければ、自国の安全もまた保障されないはずだ。いまこそ国際協力が必要な時であるにも関わらず、実際に起こったことは他国に対する責任転嫁と医療資源の奪い合いであった。

3月にアメリカで新型コロナウイルスの感染者や死者が急増すると、アメリカはマスクの輸出を禁止すると同時に、国際市場におけるマスクの「買い占め」に走った。その結果、世界のマスク市場は「無法地帯化」し、アメリカが既に契約を結んだ他国よりも高い価格を払って買い占めるケースも見られた。アメリカはコロナウイルスを「中国ウイルス」と呼び続け、WHOを「中国寄り」と批判して拠出金の停止と脱退を宣言した。

一方でコロナウイルスの抑え込みにいち早く成功した中国は、自由市場へのマスクの輸出を停止したうえで、マスクや医療用ガウンの世界一のサプライヤーとして、「マスク外交」を展開した。世界の非常時に乗じて、自らの地政学的影響力を拡大しようとしたのである。ウイルスの発生源でありながら世界の救世主のごとく振舞おうとする中国の態度に、欧州の国々は懐疑的な目を向けた。

ワクチン・ナショナリズムに走る各国

感染拡大阻止の要となるのがワクチンの開発だが、多くの国は、一致協力して世界規模の戦略を立案・推進するのではなく、ワクチンの開発と供給に関して「自国第一主義」の姿勢を取っている。これが「ワクチン・ナショナリズム」と呼ばれるものだ。製薬大手サノフィはアメリカに、セラム研究所はインドに、製薬大手アストラゼネカはイギリスに優先的にワクチンを供給する、といった具合である。

人類全体の敵であるウイルスと闘うための国際協力を主導しなければならないのがWHOだが、そのWHO自身が隠ぺい工作が疑われる中国の初動を賞賛したり、パンデミック宣言を遅らせたことで世界から批判を浴びている。WHOは国連の機関なので、事務局長の選挙では主権国家が一国一票で投票する。そうすると開発途上国のチャンスが大きくなり、中国が途上国を味方にしているので、中国の推す人が事務局長に選ばれる可能性が高くなる。こうして選ばれた人は再選を考えると、応援してくれた国に対して政治的な配慮をせざるを得ないのである。現にテドロス事務局長はエチオピアで保健相と外相を務めていたころに中国から130億ドル(1.4兆円)以上の支援を受けており、中国の支援でWHO事務局長に当選したと言われている。アメリカがWHOからの脱退を表明したいま、中国がWHOに20億ドルの拠出を約束して、その後がまに座ろうとしている。

国境を超えた連携のモデル示したASEAN

国を超えた協力が成功したモデルの一つがASEANである。ASEANは当初からコロナウィルスの感染拡大に関し、専門家会議をASEANレベルで開き、情報交換と協力を行ってきた。そして互いに感染者や重傷者を隔離しながら、医療情報を共有している。また、マスクの輸出、医療関係者と医療機器の送付を通して地域が協働することによって、重傷者や死者を抑えることに成功した。

4月ごろは韓国のコロナ対応が非常に評判が良かったので、アメリカやヨーロッパをはじめ57カ国から韓国にコロナ対策の協力要請があった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は日本にも協力したいと言っていたが、日本はそれまでの日韓関係の冷え込みと、国としてのメンツが優先したのか、韓国に協力を要請することはなかった。

コロナ対策では科学技術がものを言うため、国境を越えた連帯や協力関係が極めて重要である。にもかかわらず世界各国は内向きになり、自国中心主義に陥っている。これはUPFの掲げる「共生・共栄・共義」の理想とは程遠い姿であり、なにか根本的な「文明の転換」が起こらなければ、コロナ禍の克服は難しいのではないだろうか。

(つづく)

感染急拡大で「協力と連携」忘れた国際社会

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