ポストコロナ

ポストコロナ 世界はどう変化するのか 〜UPF主催「ILC特別懇談会」の議論から〜 第8回

医療崩壊の次は家族崩壊―鍵となる「家族療法」の普及と専門家育成

text by 魚谷俊輔

「ポストコロナの世界—平和秩序と日本の役割」をテーマとするILC特別懇談会(主催:UPF-Japanほか)が2020年6月30日、東京都内で開催され、国際政治と家庭問題の専門家、ジャーナリスト、国会議員をはじめとする25人の有識者たちが活発なディスカッションを行った。このシリーズは、そこで有識者たちが出しあった様々なアイデアをテーマごとに整理し、換骨奪胎して筆者なりにまとめたものである。この論考が、平和大使1人ひとりがポストコロナの世界に対する展望を抱くうえで助けになれば幸甚である。

外部との接触禁じられた子供への影響

コロナ禍で「医療崩壊」の次に来るのは「家族崩壊」かもしれない。家庭の中でいま児童虐待とDVが急増している。これは医療従事者のような特定の職種ではなく、どんな職種でも起こりえる。失業の問題も含めて、コロナのストレスが家庭に対してボディーブローのように効いてきている。子供たちも外出できないとストレスがたまる。学校に登校しても友達と自由に会話できないのは酷である。しかし、感染を予防するためはそうせざるを得ない。理屈はそうだが、成長期の子供たちが自由に友達と会話できないということが、どういう影響を今後5年から10年にかけて及ぼすのかはまだ分からない。そのトラウマの影響が70〜80年と長期的に残るかもしれない。

実は、コロナが来る前からすでに家族崩壊の危機は日本の個々の家庭の中で深く静かに進行していた。代表的には「8050問題」があり、80代の親と50代の引きこもりの息子が一緒に生活していてどうにもならなくなる、ということが無数に起こっている。

家族支援の専門家が決定的に不足している日本

子供が小さい場合には児童虐待の問題で、一昨年からいくつも事件が起こっている。この児童虐待の問題に対する有効な手立ては非常に難しい。日本には専門家が決定的に不足している。特に「家族療法」の専門家は日本には非常に少なく、数百人しかいない。

いろいろ問題があるアメリカでは、MFT(Marriage & Family Therapist)の資格(修士号)を持っている専門家は累積で16万人いる。現状で5万人の専門家が各地域にいて、180万人の国民をケアしている。それが日本の場合には数百人しかいない。

児童相談所にも本当の意味での家族支援の専門家はいない。日本の児童相談所全体の職員の55%は勤務経験が0〜3年未満の、心理士の資格を取ったばかりの若い人たちが仕事をしている。こういう状況が進行していても、全く改善されていない。家族療法や家族支援の専門家が日本に少ないこと、すなわち1億2000万人の人口に対して数百人しかいないということは、「家族には問題がない」という前提で政策が決定されているとしか思えない。うつにしろ、虐待の問題にしろ、コロナの前から急増している。日本の家族の現状は、普通の家庭でも相当深刻であることを知るべきである。

夫婦間の「潜在的対立」をどう解消するか

日本の家族のいちばんの課題は、夫婦のあり方である。世界的に見て、日本の夫婦の対話の時間数は最も少ない。対話をしないのが日本の夫婦の知恵で、話をすると危ないから、男性は黙っている。女性の側は夫が仕事をしている間は仕方がないと思っているが、退職後はそうはいかない。コロナ後は妻の発言がさらに加速する可能性があり、男性陣はどうやって防戦するかを考えないといけない。

日本の家庭の中の夫婦間の潜在的対立、格差、食い違い、ディスコミュニケーションは非常に大きい。コミュニケーションしないことによって平和を保ってきたが、これからはそうはいかない。そこに子供の問題も入ってくる。今後は離婚等で親権をめぐる問題が非常に厳しくなってくると思う。

日本における「家族の崩壊」はもともと進行していたのだが、認知されていなかった。しかしコロナによって、日本の家族の危機をどうにかしなければならないという問題が表に出てきた。家族の問題を解決する専門的なノウハウは、一般にはほとんど知られていないし、「家族療法」という言葉はマスコミにもほとんど登場しない。「家族療法」の専門家は、家族支援のノウハウを蓄積している。家族の崩壊を食い止め、再編していくためにその認知をもっと高めるべきである。

(つづく)

医療崩壊の次は家族崩壊―鍵となる「家族療法」の普及と専門家育成

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