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バイデン外交で真の国際協調は実現するか

対中融和への懸念広がる

世界が注目した米大統領選は7日午前(日本時間8日未明)、米主要メディアが民主党候補のジョー・バイデン前副大統領(77)の当選を一斉に報じました。バイデン氏は地元の東部デラウェア州ウィルミントンで「勝利宣言」の演説を行いました。

一方のトランプ大統領は7日、声明を出し、不正投票が反映されたと主張し、バイデン氏当確の開票結果を受け入れない意向を示しました。トランプ陣営が展開している訴訟の行方や、僅差となった接戦州で実施される見通しの再集計の結果が「最終的な勝者を決めるだろう」としています。

しかし、各国はすでに、当選に必要な選挙人数を獲得したバイデン氏に祝意を示し、バイデン政権誕生を前提に対米関係の構築に向かっています。

バイデン氏は同盟国との連携を軸に、国際協調を重視した外交政策を目指すとし、トランプ氏との違いを鮮明にしました。これまでのトランプ氏の外交が「米国第一」に偏るあまり、同盟国を軽視してきたとの考えからです。

トランプ政権は地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」、環太平洋連携協定(TPP)、国連人権理事会、国連教育科学文化機関(ユネスコ)、イラン核合意から次々と離脱。来年7月には世界保健機関(WHO)からも脱退すると通告しているほか、世界貿易機関(WTO)については紛争解決機関の委員補充を阻み、機能をまひさせました。

こういった米国の「自国第一主義」が国際的な自国中心主義の風潮を生んだとする見方です。

また、対中国政策では、「新冷戦」と呼ばれるほど関係が悪化しました。

トランプ氏は就任直後から、「対中貿易赤字の解消」「貿易の不均衡の解消」を推し進め、中国製品などへの関税引き上げを幾度となく発動しました。

一方で、米中冷戦を通して、共産主義国家・中国の姿が顕わになりに、自由主義陣営にとって中国の脅威を再確認することになりました。

結果として、厳格な香港国家安全維持法の制定や、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒少数派の弾圧など、中国の人権を無視した思想統制や非民主的な抑圧の実態が国際社会の目にさらされることになったのです。

それでは、バイデン政権が誕生した場合、外交政策や今後の日米関係をどのように変わっていくのでしょうか。

バイデン氏は旧来の同盟国との関係を早急に再構築し、新型コロナウイルスの封じ込めに向けた国際協力を進めていきたいと考えています。WHOに再加盟して改革を推進することに加え、主要7カ国(G7)会合などの国際会議の場を通じて、コロナ対策および新興国の債務危機や途上国の食糧危機といったコロナ流行の余波に対処することが含まれます。

一方で、中国の覇権主義が強まる可能性があります。バイデン陣営の外交担当者はオバマ政権のスタッフだったメンバーが多く、そのスタッフがバイデン政権に引き継がれた場合に、アジア外交が中国重視の方向にシフトして「ジャパンパッシング」、つまり日本が軽視される状況になるのではないかと指摘されています。

日米関係の構築に向けて菅義偉首相は12日、バイデン氏と電話で15分間協議しました。新型コロナウイルス対策や気候変動問題など国際社会共通の課題で連携していくことで一致しました。日本防衛の義務を定めた日米安全保障条約5条が沖縄県・尖閣諸島の防衛に適用されることも確認しました。

バイデン氏は選挙期間中から対中強硬姿勢をアピールしていましたが、大統領としての立場でそれが維持できるかは不透明です。地球温暖化問題などでの国際協調を重視するのであれば、中国の協力を取り付ける必要性から、結局は中国に対して融和的にならざるを得ないからです。

国際協調も、自国の平和と安定があってはじめて機能します。トランプ氏は個性の強さゆえに敵も多くいました。一方で、対中国を念頭に、安全保障をめぐる自由主義陣営の連携を強化できたのはトランプ氏と安倍前首相の関係ゆえでした。

バイデン外交が日本、アジアの平和と安全を構築することができるか、これから冷静に見極めていかなければなりません。

(H・S)

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