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「異様」な就任式における「普通」の演説が際立たせた米国の分断

コロナ、経済、対中国で前途多難のバイデン新政権

ジョー・バイデン氏が1月20日(日本時間21日)、第46代米大統領に就任しました。6日にトランプ前大統領の支持者らが議会を襲撃した事件を受け、2万5000人もの兵士が警備に当たる一方、コロナ対策で出席者が大幅に制限されるという異様な就任式となりました。

およそ20分の就任演説で、バイデン氏は国民の結束を中心テーマに据え、コロナとの戦いとともに「民主主義の立て直し」を強調しました。前任者であるオバマ氏の「Yes,we can!」、トランプ氏の「Make America great again」のキャッチフレーズに比べると、バイデン氏が繰り返した「unity=結束」(就任演説の中で9回)、「democracy=民主主義」(同11回)などはある意味、凡庸なフレーズですが、その言葉に重みを感じるくらい米国社会の深刻な分断状況を象徴したスピーチだったと言えます。

演説のほとんどが国内問題にあてられていたことからも、新政権は今後しばらく、コロナ対策や経済再建などの国内政策に注力せざるを得ないと思われます。一方で、トランプ前大統領の自国第一主義と決別し、国際協調のもと温暖化などの課題に取り組むとともに、影響力を増す中国への対応に当たる姿勢も示しています。

しかし、トランプ氏の岩盤支持層が根強い人気を維持するなか、新政権の政策には反発も予想され、前途は容易ではありません。また、バイデン政権の足を縛るのはトランプ支持者や共和党だけではありません。

民主党内の中道派とされているバイデン氏ですが、新政権は今や、誕生の原動力の一つとなった党内左派の意向を無視することができなくなっています。副大統領に就任したカマラ・ハリス氏は、初の女性・アフリカ系・アジア系の副大統領として注目されていますが、一方で議員時代の投票歴から、100人の上院議員の中で「最も社会主義的」とも言われています。選挙協力の「見返り」として、左派は今後、自らが主張する政策(急進的な環境対策、国民皆保険、公立大学の学費無償化、所得税や法人税の大幅引き上げ、GAFA解体など)の実行を要求するとみられます。

また、国内経済の再建策について、新政権は財政出動を軸にした景気対策を打ち出しており、特にハイテク、医療、インフラへの投資を強化するとみられています。しかし、専門家からは、こうした分野が好況になれば、流れに取り残された業種が割りを食うことになり、結果として格差が広がるのではないかとの指摘もあります。

さらに、外交分野でも懸念が残ります。バイデン政権は今のところ、対中国で強硬姿勢を打ち出していますが、一方で国際協調の視点から、就任後すぐにパリ協定に復帰する大統領令に署名し、世界保健機関(WHO)についても脱退手続きを中止。世界貿易機関(WTO)への再生にも意欲を示しています。いずれも中国との協力関係なしに進まないこれらの問題を踏まえ、対中政策はどうなるのか、注視する必要があります。

こうしたなか、菅義偉首相は28日、バイデン氏と電話で会談し、日米同盟のさらなる強化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、連携を緊密にしていくことで一致したといいます。ただ、以上のような難題山積の米国の状況を見るにつけ、日本が「自由で開かれたインド太平洋」の推進に果たす役割はこれまで以上に大きくなると感じます。

強硬な「大国外交」を隠すこともしない中国に対し、アジア、中東、欧州など、全方位的にパワーを見せつけることがもはや困難になった米国。それは、同盟国として日本が今後どのような役割を果たすべきなのか、再考と覚悟が求められている状況ともいえるでしょう。

(y)

「異様」な就任式における「普通」の演説が際立たせた米国の分断

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