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未曾有の危機に立ち向かうレジリエンスをどう育てるか

東日本大震災から10年

東日本大震災の発生から11日で10年を迎えました。被災地では早朝から鎮魂の祈りが捧げられました。また、世界中から様々なメッセージが寄せられました。

2011年3月11日午後2時46分。三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の地震が発生。東北や北関東を中心に最大震度7を観測し、大規模な津波が広範囲にわたって沿岸部に押し寄せました。さらに東京電力福島第1原子力発電所事故によって、放射性物質が広範囲に流出・拡散し、結果として、被災地の人々は「地震・津波・原発事故」の三重苦に苦しめられることになりました。

警視庁がまとめた今月1日現在の人的被害状況によると、災害関連死を含めてこれまでの死者は1万9747人、行方不明者は6県でなお2525人に上っています。

政府が11日午後に東京の国立劇場で開いた追悼式典には、天皇・皇后両陛下が出席されました。菅義偉首相は「あらゆる分野において国土強靭化に取り組み、災害に強い国づくりを進めていく」と話しました。政府は10年間で37兆円超の予算を投じ復興を進めてきました。災害公営住宅は完成し、寸断された道路の整備は今年度末で85%の工事を終え、インフラの整備は一段落しました。

天皇陛下は、冒頭、犠牲者と遺族に深い哀悼の気持ちを示すとともに「この震災の被害の大きさは、忘れることのできない記憶として、今なお脳裏から離れることはありません」と述べられました。

町の復興は喜ばしいことですが、一方で人々の心の復興はどうでしょうか。風景の変化とともに記憶も薄れ、被災者だけが震災で受けた傷を抱えたままでは本当の復興とは言えません。

その意味で、すべての人にとって完全な復興となる日を迎えることは難しいのかもしれませんが、私たちにできることはこうした国難を通じて得た教訓を、次なる危機への備えとし、語り継いでいくことです。

2020年は世界を新型コロナウイルスが襲いました。未曽有の危機はもはや、いつでもどこでも起こりえます。これまでの経験を今後の対策へと活かすために、防災環境や医療体制の確立などのインフラ整備、法制度の見直し、自治体連携、国際協力などあらゆる分野で官民が力を合わせなければなりません。

さらに、想像を超えた災害や危機が人々を襲った時、法やシステムでは対応できない人々の心をどう守るか。こうした議論も冷静に進めたいものです。

東日本大震災や今回のコロナ禍のような先の見えない恐怖に追い込まれた時、私たちは個々の人間性が顕わになる様子を幾度となく目撃してきました。東日本大震災の際には、日本人の生活必需品が届くのを待ちながら、互いを思いやり協力し合う冷静な行動が国際社会から評価されました。そこには略奪や暴動もありませんでした。一方で、福島原発による放射能漏れ問題で、福島出身という理由だけで遠ざけられたり、偏見の目で見られる差別といったものが生じました。

新型コロナパンデミックを巡っても、医療関係者や感染者への差別・偏見が問題となっています。人々の不安や恐怖が冷静な判断を失わせ、危険だと思うものを敵視する風潮は東日本大震災の時と似ています。

自然災害や感染症拡大の脅威は、今後ますます社会と個人のレジリエンス(困難や逆境にあっても心折れることなく立ち直るしなやかな強さ)の必要性を私たちに要求し続けるでしょう。そのためにも、本当の復興とは何か、について、考えや価値観を深める機会を共有したいものです。

(H・S)

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