米中対立で揺れる国連と日本の役割

米中対立で揺れる国連と日本の役割 第11回

中華民族復興の夢を賭けた「一帯一路」

text by 魚谷俊輔

 

それでは中国の歴史認識とはどのようなものでしょうか。習近平国家主席がよく使う言葉に「中国の夢」や「中華民族の栄光の復興」などがありますが、これは要するに失地回復のことです。ではどの時代からの失地回復かというと、清王朝時代の栄光を取り戻そうということです。清王朝時代の周辺国家を、自国の主権のもとに治めようとしているのです。ウイグルとチベットは既に終わりました。清朝時代の朝貢国には、ベトナム、朝鮮半島、ハバロフスク、琉球王国も含まれているので、これを全部取り戻さないといけないということです。

中国人にとって中華民族の栄光の時代であった清王朝時代の栄光を破壊したのが誰かというと、「西欧列強」ということになります。中国は1840年代のアヘン戦争と南京条約のトラウマに、いまも苛まれているということです。アヘン戦争以来、過去100年以上にわたって続いた中華民族の屈辱は、いまだ晴らされていないのです。したがって、中国にとって現状はあくまで「不正義」であるということです。

中国は19世紀以来の「西洋文明からの衝撃」という歴史上最も強力な中国文化に対する挑戦に対して、なんとか反撃をしたいと願い続けて、いままでやってきました。1949年の毛沢東による共産主義革命で、一応は国としての体をなして、そこからマカオをポルトガルから取り戻し、香港をイギリスから取り戻すことによって、かつての欧州列強を中国の周辺から撤退させることができました。「残っているのはアメリカだけだ!」ということであり、中国人にとっては東アジアと西太平洋におけるアメリカのプレゼンスは西洋文明の象徴であり、「最後の後継者」なのです。これは漢民族の民族的トラウマといっていいわけです。

このトラウマを乗り越えて世界覇権を目指すために中国が打ち出したのが「一帯一路」構想というものです。これは中国から見て西の方に向かっていって、ヨーロッパからアフリカまで全部支配しようとということです。「一帯」というのは陸のシルクロード経済ベルトであり、「一路」というのは海のシルクロード構想のことであり、海と陸を結ぶ2つの地域で交通インフラを整備して貿易を促進し、資金の往来を促進していこうという大きな構想です。大変聞こえはいいのですが、内実は中国の「経済スーパーパワー外交」であり、投資した国には「債務の罠」というのが待っていて、中国の支配下に落ちるようになっているのです。

(つづく)

中華民族復興の夢を賭けた「一帯一路」

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