米中対立で揺れる国連と日本の役割

米中対立で揺れる国連と日本の役割 第12回

中国の「出先機関」と化したWHO

text by 魚谷俊輔

 

現在、中国は国連を通してこの「一帯一路」を推進しようとしております。国連本体の中にある国連経済社会局(DESA)は事務局長に2017年7月、中国の外交副部長だった劉振民氏を迎えました。その結果、いまではこの経済社会局は中国の「一帯一路」計画の推進とその宣伝活動を行う部署となってしまっていると言われています。中国は国連の文書の中に習近平主席の文言を挿入し、「一帯一路」計画をグローバルなインフラ建設構想として推進するように働きかけており、これまでに30の国連機関や組織が中国の「一帯一路」計画への支持を表明する覚書に署名しています。このように中国は「一帯一路」に国連のお墨付きを与えることに成功したのです。

そして、コロナで有名になった世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、あまりにも中国寄りではないかと言われています。これはそう言われても仕方ない証拠がたくさんあります。隠蔽工作が疑われる中国の初動を称賛したり、パンデミック宣言を遅らせてみたりと、いろいろあるわけです。このテドロスという人は、もともとエチオピアの保健相・外相であり、その頃に中国から130億ドル以上の支援を受けています。さらにWHOの事務局長になったのも、中国の支援で票を集めてもらって当選したということですから、中国政府に忖度せざるを得ない立場だとは言えるかもしれません。しかしこれは、お金の問題だけではなさそうです。実はこのテドロスという人は、もともとティグレ人民解放戦線という毛沢東主義を信奉するエチオピアの政治団体に所属していた共産主義者なのです。したがって思想的にも中国とは相性が良かったのかもしれないということになります。

実はこのテドロスさん以前から中国はWHOに対して多大な影響力を行使してきました。ことの発端は2006年の11月にあったWHO事務局長選挙なのですが、実は日本でコロナで大変有名になった尾身茂さんをWHOの事務局長にしようということで、このとき日本政府は尾身さんを擁立して選挙に出馬させます。これを阻止するために中国が立てた人がマーガレット・チャンという香港出身のチャイニーズです。選挙の結果、中国がアフリカの票などを集めてチャン氏を応援して小差でチャン氏が当選し、日本は敗れました。

以後14年間にわたって、事実上WHOは中国の影響下にあるといわれています。このマーガレット・チャンという人が何をやったかというと、台湾はかつてはWHOの加盟国だったのですが、中国の圧力により公式に参加できず、オブザーバーとして参加していたのですが、なんと2007年からチャン氏は台湾からオブザーバーとしての資格も剥奪してしまったのです。さすがに2代にわたって中国人をWHOのトップにすることははばかられるということで、2017年の選挙では中国共産党の言うことをよく聞くテドロス氏を擁立して、WHOを支配し続けているというわけです。

(つづく)

中国の「出先機関」と化したWHO

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