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改革求められる韓国の「スパイ組織」

分断国家、左右対決のはざまで揺れる国家情報院

朴槿恵(パク・クネ)前政権時代に、韓国の情報機関である国家情報院(国情院)のトップを務めた李丙琪(イ・ビョンギ)元駐日大使と李氏の前任者、南在俊(ナム・ジェジュン)氏がソウル地検に逮捕されました。

国情院が「特殊活動費」の一部を朴政権に上納したというのが逮捕の理由です。国情院による大統領府への特殊活動費の上納は、3日に逮捕された李載晩(イ・ジェマン)元大統領府総務秘書官の証言で明らかになりました。金額は総額で約40億ウォン(約4億円)相当といいます。

特殊活動費というのはいわゆる「領収書のいらないカネ」のことで、国情院は年間5000億ウォンもの資金を自由に使えるといわれています。もちろん、使い道を国民に報告する義務はありませんし、組織上、国会の監視も及びません。朴氏がその特殊活動費を私的に使用していたことがわかれば、収賄や国庫損失罪に問われる可能性も出てきました。

さてその国情院ですが、韓国でもベールに包まれた謎の組織となっています。不正の温床になっているとして、歴代の革新系大統領は国情院改革を選挙公約に掲げてきました。

実際、国情院に対する疑惑としては、上記の裏金疑惑のほか以下のようなものがあります。

①2012年の韓国大統領選の際、国情院が大規模な「コメント部隊」を組織し、文在寅(ムン・ジェイン)候補(当時)を批判した。検察は最低50億ウォンの国費を使ったとみている(当時の責任者、呉世勲<オ・セフン>前国情院トップは逮捕)

②李明博(イ・ミョンバク)政権時代に政権に批判的な人物のイメージ低下を図るために、ヌード写真を合成し、ネットで流布した

③李政権時代に政権を批判した番組を排除しようとテレビ局に対する検閲を強化した

④11年のソウル市長選に立候補した朴元淳氏(パク・ウォンスン=現ソウル市長)の当選を防ぐため、「北朝鮮のシンパ」というレッテルを貼るための工作を行った

⑤李政権が金大中(キム・デジュン)前大統領のノーベル平和賞受賞を剥奪するための市民運動をサポートした(国情院の前身の韓国中央情報部=KCIAが1973年に政権に批判的な金氏を東京で拉致(いわゆる金大中事件)。金氏が大統領就任後に国情院を縮小するなど、両者は緊張関係にあった)

国情院の前進となるKCIAは1961年の創設。当時の朴正熙大統領の直属部隊として「ソ連KGBのような秘密警察のような性格が強かった」(韓国の専門家)といいます。

現在の国情院は、大統領に毎朝インテリジェンスをブリーフィングする米CIAのような組織を目標にしています。専門家によると、情報員は「韓国の007」としてのプライドが高いそうですが、実態は上記の疑惑の内容からしても実態はかなりスケールが小さく、日本で言えば国家2種(省庁の地方出先機関などの幹部候補)の公務員の域を出ないそうです。

いずれにせよ、国情院を巡る問題は分断国家で左右対決の激しい韓国ならではの現象でしょう。

(H=ソウル在住)

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